セミナーレポート

あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座

第4回 発育発達とアミノ酸
~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~
4. 成長に欠かせないアミノ酸

梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
【聞き手】鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)
※この記事の内容は公開当時の情報です
「プロのためのアミノ酸実践講座」の第4回が2024年3月22日にオンラインで開催されました。第4回のテーマは「発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~」。ここではセミナーの模様をレビュー記事としてお届けします。

全5回の連載の第4回は、梶原賢太氏による講義「成長に欠かせないアミノ酸」です。
演者:梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部) Profile ▶
演題:「成長に欠かせないアミノ酸」
初出:あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座 第4回 発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~
開催日・場所:2024年3月22日/オンライン

成長に欠かせないアミノ酸

続きまして、タンパク質に関連して、よくある誤解を取り上げお話しさせていただきます。

まずコラーゲンの質です。コラーゲンのアミノ酸スコアは、実はゼロです。なぜなら、必須アミノ酸であるトリプトファンが全く含まれていないからです。トリプトファンだけでなく、他の必須アミノ酸もコラーゲン以外のタンパク質源となる食材と比べると、やや少ないといえます(図1)。

コラーゲンの「質」とアミノ酸スコア

図1 コラーゲンの「質」とアミノ酸スコア

ですから、もし皆さんの周りの方で、コラーゲンだけ取っていれば美しくなれると言っている方がいたら、それはちょっと違うということです。もちろん、コラーゲンが悪いということではなく、コラーゲンを他の食材と一緒に摂ることによって、アミノ酸のバランスを高めることが重要だということです。

次は小麦粉です。小麦粉が身体に悪いという話もよく耳にいたします。パンやパスタなどは身体に悪く、なぜなら原材料の小麦粉にはグルテンが多く含まれているからだと。

このような“説”が拡散した背景には、ある著名なテニスプレーヤーが体調不良のために成績がふるわず、原因がグルテンアレルギーとわかってグルテンフリー、グルテン除去食にしてから調子が上向いたという事実が拡大解釈されて、グルテンフリーは体調管理にも使えるといった評価が一部でされていることがあるようです(図2)。

小麦のたんぱく質、グルテンと「グルテンフリー」について

図2 小麦のたんぱく質、グルテンと「グルテンフリー」について

グルテンフリーライフ協会のサイトに解説がありますように、グルテンフリーはアレルギーが原因の体調不良に対する対策であって、ダイエットに有効という報告はありません。小麦粉そのものは先ほど解説したようにリジンが少ないとはいえ、否定的に捉えるものではなく、他の食材とのバランスの中で摂取することによって有用となる食材だと思います。

さて、そろそろまとめに入っていきますが、その前に、成長に関わるアミノ酸の考え方として、「準必須アミノ酸」という分類についてお話しさせていただきます(図3)。

準必須アミノ酸とは?

図3 準必須アミノ酸とは?

この準必須アミノ酸というのは、必須ではないものの体内で十分な量が作られないアミノ酸という位置づけです。子どもや成人でも病気にかかった時などに、必要量が増加して不足しがちになります。その代表格として挙げられるのが、先ほどお話ししました、成長に有用なアルギニンです。そして免疫や侵襲ストレスに重要なグルタミン、チロシン、メチオニン、シスチンなども該当すると言ってよいでしょう。

必須アミノ酸だけでなく、こういった準必須アミノ酸と呼ばれることもあるアミノ酸も、十分に摂取していく必要があります。

「バランス良く食べる」ことの重要性

本日は成長のために重要なアミノ酸、タンパク質という話をしてきましたが、結局のところ、摂取エネルギー量の適切さも含めて、バランス良く摂ることがやはり成長にとって一番重要だと考えられます。

そのために私どもでは、「さあ、にぎやかいにいただく」という推奨をしています。図4に示しました10種類の食品群を主食とともに摂っていただければ、ほぼ1日の必要量を満たせるだろうということです。

多様な食材を食べて元気に!

図4 多様な食材を食べて元気に!

今、私どもはANPSという新しい取り組みを進めております。ANPSとは、「味の素ニュートリエントプロファイリングシステム」の略称です(図5)。

ANPSとは?

図5 ANPSとは?

どういうものか簡単に言えば、食品の質の見える化です。消費者に対して、購入しようとしている食品の栄養がご自身にとってバランス良く摂れるものかどうかを、わかりやすく評価できるようなシステムです。海外では既にかなり先に進んでいて、赤・青・黄色の3色で、栄養化の高いもの、摂り過ぎに注意すべきものをパッケージに示したり、スコアで示したりしています。

私どもはこれを日本に導入しつつ、例えばスマホのアプリを利用して、食べたものが自分にとって適切なものかどうかを判断できるような仕組み作りに取り組んでいるとこです。栄養スタッフがバイブルとされている「食品成分表」では、アミノ酸バランスについては「アミノ酸成分表」を参照して判断する必要がありますが、アミノ酸のバランスをその吸収性も加味したうえで、消費者に利用しやすいように直接提供できるようになればと考えています。

本日のまとめ

図6に本日のお話をまとめてみました。

成長に欠かせないアミノ酸〈まとめ〉

図6 成長に欠かせないアミノ酸〈まとめ〉

寒い環境ほど成長するという説があるとお話ししました。これは、ある程度、遺伝的なことも関係しているのだろうと思います。

やはり重要なのは食事です。成長期には必要な栄養素が不足しないように摂取することが大事です。何かの食品を多く摂れば、明らかに成長が促進されるという栄養素は、今のところ見つかっていないといって良いと思います。

タンパク質につきましては誤解が多いという話もいたしました。コラーゲンや小麦のタンパク質についても、それだけでなく、他の食材とあわせて摂り入れることでアミノ酸スコアを高めることができます。少なくとも、特定のものに偏らないということが大事だと思います。

今日の話の中では、リジンというアミノ酸が成長にとって重要であり、アルギニンとともにアミノ酸の代謝の鍵になるものであり、不足しないようにしっかり摂ることが大事だと思います。

また、素材によっては消化吸収性が異なり、今後はDIAASという指標の普及が予測され、将来的にはこのような指標がスコアとしてわかりやすく表示された製品が流通してくるだろうと考えています。

結論としましては、成長のためには成長ホルモンが最も大切です。そして、成長ホルモンの分泌には生活習慣も関係してきます。低出生体重児を減らすという問題についてもお話ししました。また、睡眠も成長ホルモンに重要ですし、運動後には成長ホルモンの分泌が上昇しますので、適度な運動も欠かせないということです。

ディスカッション「『バランス良く』の判断」

鈴木先生 梶原先生、ありがとうございました。DIAASについては、私もふだん常々、食べた人がどのくらい消化吸収されているのか気になっていましたので、興味深く拝聴しました。このDIAASという指標は、成人を前提としたものなのでしょうか? と申しますのは、消化や吸収が成人に比較して未熟な子どもは、どうなのかなと思いまして。
梶原氏 そうですね。これはあくまでも健常人を対象として、その方が食べた時にどれぐらい消化吸収ができるかというスコアとして出していますので、おっしゃるように、何らかの疾患をお持ちの方とか小児、もしかするとアスリートの方なども、スコアが少し変わってくる可能性はあると思います。
鈴木先生 アルギニンやリジンについては、私の感覚だと、ふつうに食べられているなら、そんなに気を遣う必要はないのではないかと感じるものの、一方でご本人が「ふつうに食べている」と言っていらしても我々からみれば偏りや不足が認められる場合もあるわけで、そういう場合は注意が必要なのかもしれません。梶原先生からご覧になって、成長期での子どもではアルギニンやリジンを強化したほうが良いとお感じになりますか?
梶原氏 おっしゃるように「バランス良く摂れている」ならば問題ないと思います。ただ、このセミナーを視聴されているような栄養スタッフの方であれば、ご自身のご判断に間違いないものの、一般の方、とくに成長期にあるような世代で、「バランス良く摂れている」とご自身で正しく判断できるかというと、なかなか難しいのではないかと。
鈴木先生 そうだと思います。それから、今日のお話は新しい情報満載でして、例えば「準必須アミノ酸」というキーワードがございましたね。この言葉は、我々の間ではまだあまり使っていないように感じます。
梶原氏 そうかもしれませんね。わかりやすく言うとすれば、必須アミノ酸とされるアミノ酸は、体内で作れないので摂取が必須であるのに対して、「必須」とはいえないものの食べ方によっては不足することもあるために、いろいろ食材をバランス良く摂る必要が高いアミノ酸が「準必須アミノ酸」ということです。

このシリーズは全5回でお届けいたします。

プロのためのアミノ酸実践講座 第4回 発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~

Profile

プロフィール写真

梶原 賢太(かじわら けんた)
味の素株式会社アミノサイエンス事業本部

1991年4月 味の素株式会社入社。中央研究所・生物科学研究所に配属。アミノ酸の生理作用とアミノ酸を応用した医薬品開発に携わる。2010年4月 味の素製薬株式会社(現:EAファーマ株式会社)に出向。輸液・栄養・透析研究所に所属し、輸液剤、透析剤の薬理研究に携わる。2012年4月 味の素製薬株式会社臨床開発部。輸液剤、消化器疾患用薬の臨床試験(治験)の実施、承認申請書作成に携わる。2014年7月 味の素株式会社健康ケア事業本部に所属。2016年7月 同アミノサイエンス事業本部ダイレクトマーケティング部R&Dグループ。2023年7月より同事業本部バイオファイン研究所マテリアル&テクノロジーソリューション研究所アミノインデックス・サポーティブケアグループ 兼 アミノサイエンス統括部品質保証・OE推進グループ健康学術チーム兼任となる。