第4回 発育発達とアミノ酸
~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~
3. アミノ酸で成長を促進できるか?/たんぱく質の新しい栄養価
【聞き手】鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)
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演題:「アミノ酸で成長を促進できるか?/たんぱく質の新しい栄養」
初出:あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座 第4回 発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~
開催日・場所:2024年3月22日/オンライン
アミノ酸で成長を促進できるか?
では続きまして、アミノ酸の話に入っていきたいと思います。
アミノ酸の中で特に成長に関わるものとして、アルギニンとリジンが挙げられます(図1)。
アルギニンは非必須のアミノ酸です。大豆、マグロ、卵などのたんぱく質食品に多く含まれていいます。動物性以外の食品の中で、ニンニクに結構多く含まれているというのが面白い点かもしれません。ニンニクというと、なんとなく精力がつきそうな感じがいたします。
一方、リジンは、動物性たんぱく質に多いものの、アルギニンと一緒で大豆も多く含まれています。後で少しお話ししますが、小麦粉には少ないアミノ酸です。
なお、これらアルギニンとリジンはどちらも特徴的な構造をしており、アミノ基がふつうのアミノ酸の基本骨格以外にもたくさんついています。とくにアルギニンには三つもついています。
さて、これらのアミノ酸の特徴ですが、まずアルギニンにつきましては、アンモニアを代謝するウレアサイクル、尿素サイクルを構成するアミノ酸として重要です。
アミノ酸を代謝する主要臓器は肝臓です。スライドには肝臓の中の簡単な模式図を示しています。肝臓ではさまざまな栄養素の代謝が行われています。とくにミトコンドリアを中心としたエネルギー産生経路であるTCAサイクルは、アミノ酸の分解産物を取り込み、エネルギーを産生するという役割を果たします。アミノ酸が代謝されると、エネルギー産生の過程でアンモニアが発生しますが、このアンモニアは尿素サイクルに取り込まれ、最終的に尿素として排泄されます。アルギニンは尿素サイクルにおける重要な構成要素であり、体を形作るたんぱく質の材料としても鍵となるアミノ酸です。
他方、アルギニンも、しばしば「成長に良いアミノ酸」と言われます。確かにアルギニンには、成長ホルモンの分泌を促す働きがあります。その作用を利用して、成長ホルモンの分泌能を測定するための医薬品としても使われています(下記参照)。体重60kgの人で30gというかなりの量を投与して採血し、成長ホルモンがどの程度増えるかを評価します。インスリンやグルカゴンでも成長ホルモンが増えますが、それらは血糖などへの副作用があるので、副作用の少ないアルギニンが、このような検査に使われています。
成長ホルモン分泌不全性低身長症(日本内分泌学会)
男性アスリートを対象に、アルギニンとオルニチンの摂取による成長ホルモンの分泌への影響を調べた研究結果が報告されています(図2)。
運動前、運動後、運動1時間後に成長ホルモンの血中濃度を測っていますが、運動自体に成長ホルモン分泌刺激作用がありますから、当然、運動後に上がっていますが、アルギニンとオルニチンを3週間継続摂取した場合、運動1時間後の成長ホルモンの値がより高く、有意差が認められたということです。
では、アルギニン摂取で、身長は伸びるのでしょうか? 海外の研究論文が1報みつかりました(図3)。思春期の成長段階にある人の食事を調査し、アルギニンの摂取量、および、アルギニン以外のたんぱく質の摂取量の五分位でそれぞれ5群に分けて、1年あたりの身長の伸びを比較するという研究です。その結果、アルギニンの摂取量の第3五分位群、第4五分位群は身長の伸びが有意に大きく、たんぱく質摂取量でもそのような傾向はみられたものの、アルギニンの摂取量との関連ほどには強くないということが示されています。
ただ、全体的な傾向として、アルギニンの摂取量が多い人はたんぱく質の摂取量自体も多いため、アルギニンの摂取量のみの違いによる身長への影響は、それほど大きなものではないのかもしれません。
アルギニンの摂取に関しましては、日本小児内分泌学会から、図4に示すような見解が発表されています。サプリメントとして摂取することについて、もちろん不足を補うという意味はあるものの、食事で十分に摂取できている場合、さらに多く取ったからといって成長が促進されることはないとされています。
その理由は、先ほど成長ホルモン分泌刺激試験のお話をした際に、用量が体重60kgあたり30gと申しましたが、サプリメントではその50分の1から5分の1程度しか摂取できないため、成長ホルモンの分泌を促すほどの効果は得られないと考えられるためとされています。
たんぱく質の栄養価「アミノ酸スコア」
〈スライド20〉
一方、たんぱく質の栄養価は必須アミノ酸の量とバランス、つまりたんぱく質の“質”で決まり、それが成長には欠かせません。
図5は、たんぱく質の“質”の解説でよく用いられる桶のイラストです。たんぱく質を作るために必要な必須アミノ酸の種類と量、それら双方がそろっていて、初めてしっかりと成長に使われるということです。このイラストは小麦粉のたんぱく質ですが、リジンが不足していますので、リジンを補うことで、その他のアミノ酸を十分に成長のために利用できるようになります。
実際に小麦粉のアミノ酸の質を測ってアミノ酸スコアとして示しますと、必須アミノ酸の九角形のうちリジンが必要量の50%にとどまっていて、それがたんぱく質としての質の高さの足かせとなっていることがわかります。リジン以外は比較的高いので、リジン含有量の多い肉や魚とあわせて食べることで、全体としてバランスが良くなると言えます。
小麦粉以外では、大豆のたんぱく質は比較的リジンは足りていますが、メチオニンやシステインという含硫アミノ酸、つまり分子構造に硫黄が入ったアミノ酸が少ないです。米のたんぱく質は比較的リジンが多く、小麦よりバランスが良いと言われています。
〈スライド23〉
私ども味の素では、国連大学などと共同で発展途上国の子どもたちが食べる小麦粉に、リジンを添加するというプロジェクトをかつて行っていました。図7はその時の中国のある地域でのデータですが、リジンを強化したことで体重の伸びが大きくなり、さらに免疫機能の指標にも好ましい影響があったことが示されています。
世界的な視野で見ますと、栄養源の中心的な食材は小麦です。たんぱく源としての小麦はリジンが不足していることから、それを補うプロジェクトを弊社は推進しております。最近ではベトナムの学校に対して、日本の給食システムの導入を支援するような取り組みもしています。
たんぱく質の新しい栄養価「DIAAS(ディアス)」
さて、たんぱく質の“質”としてのアミノ酸のバランスについてお話ししてきましたが、栄養素としての価値を考える時、アミノ酸がどれくらいしっかり体内に吸収され利用されるかという点も重要です。それが適切でない場合、筋肉量の低下、体重・体型の変化、思考力の低下、疲労などが現れやすくなる可能性があり、またたんぱく質の多い皮膚や毛髪の老化、あるいは免疫力の低下などにもつながってきます(図8)。
そこで近年、たんぱく質の質をアミノ酸スコアで評価するだけでなく、摂取後に消化されてきちんと吸収されるアミノ酸こそが、食品の質の評価として重要だと考えるようになりつつあります。
そのための評価の指標として、アミノ酸スコアに消化吸収性を加味したアミノ酸スコアである「DIAAS(digestible indispensable amino acid score)」、ディアスというスコアが提唱され、活用が進みつつあります(図9)。
ところがこのDIAASを求めるには、消化吸収性を確認するために動物にたんぱく質を摂取させ、安定同位体を使うなどして評価しなければならず、非常に手間がかかります。そこで味の素では、AIによる予測技術を開発してDIAASを推定する研究も進めております。
従来のアミノ酸スコアに消化吸収性を加味したこのDIAASという指標を、実際の食品で測定した研究論文が既に報告されてきています(図10)。
DIAASを規定する要素は二つあり、一つは食材そのものの質で、もう一つは調理・加工法です。これら二つを管理することで、より良い質のたんぱく質をからだに吸収するということが可能になります。
まず食材に着目しますと、アミノ酸スコアは100が上限ですが、DIAASでは100を超える食材も現れます。ホエイプロテインやミルクは100を超えてきますし、一方で植物性たんぱく質の大豆などは、少し100に届きません。
ただし大豆たんぱく質は、加熱調理することによって吸収性を高めることができます。その理由の一つは、加熱によって大豆トリプシン阻害物質の活性が失われることが関与しているとされています。
私ども味の素では、DIAASという新しい指標を使って、アミノ酸を必要量、摂取・吸収できているかという検討も行っています(図11)。
図11はアスリート対象の研究です。アスリートにとって重要なアミノ酸である、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、つまり、ロイシン、イソロイシン、バリンの吸収量を予測しましたところ、いずれも従来の手法による計算値よりも1~2割程度少ない量しか吸収されていないと予測されました。
この結果からも、今後はDIAASという考え方で摂取量を管理していくほうが、より好ましいということが言えるかと思います。
このシリーズは全5回でお届けいたします。
プロのためのアミノ酸実践講座 第4回 発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~
- 1. 子どもの発育
- 2. 日本人の身長の伸びは止まったのか?
- 3. アミノ酸で成長を促進できるか?/たんぱく質の新しい栄養価
- 4. 成長に欠かせないアミノ酸
- 5. トークセッション「身長にまつわる“都市前説”」【2月8日(土)公開】
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梶原 賢太(かじわら けんた)
味の素株式会社アミノサイエンス事業本部