第4回 発育発達とアミノ酸
~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~
2. 日本人の身長の伸びは止まったのか?
【聞き手】鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)

演題:「日本人の身長の伸びは止まったのか?」
初出:あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座 第4回 発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~
開催日・場所:2024年3月22日/オンライン
日本人の身長の伸びは止まったのか?
最初にお示しするのは、鈴木先生のお話にあったものと全く同じ「学校保健統計」から図にしたものです。昭和23年当時の17歳の男性の身長は160cm、女性は152cmです。平成に入って頭打ちになりましたが、男性では170cmを超える程度の身長になっています(図1)。
では、日本人の身長はもうこれ以上伸びないのか? アミノ酸の話に入る前に、この疑問について今、学術的にはどのようなことが言われているのか少しご紹介したいと思います。
さきほどのデータは文部科学省の「学校保健統計」でしたが、今度は厚生労働省の「国民健康・栄養調査」のデータを見ますと、このデータからも過去30年ほど、日本人の身長はほとんど変化していないことがわかります。女性については平均身長の伸びが鈍化するよりも早く、体重の増加が止まっていたことが示されています(図2)。
このほか、身長の地域差というものも見てとれます。平成26年の17歳の男性のデータを例にとりますと、一番高いのが石川県、低いのは沖縄県です。全体的な傾向として、北方、北陸などは平均身長が高く、九州や四国、沖縄は少し低いようです。
海外に目を移しますと、世界で最も平均身長が高い国はオランダで、男性は183cm、女性も170cmと日本人の男性並です。傾向としてやはり北方の国の人の身長が高く、これは生物学的にベルクマンの法則と言われるものが、人間にも当てはまるのではないかとする考え方もあります。ベルクマンの法則とは、温暖地域では熱を発散させる必要のため体重あたりの体表面積を大きくする方が有利であることから背が低くなり、寒冷地域では逆に背が高くなるという現象です。
では、日本人の身長の伸びが止まったとみられる原因ですが、これについては既にいくつか論文が発表されていて、出生時体重の低下が関与しているのではないかという説があります。国立生育医療研究センターから発表されたプレスリリースでは、低出生体重児の割合の増加と、成人後の平均身長との逆相関が示されています(下記参照)。このまま低出生体重児の増加が続いた場合、日本人の平均身長は1cm程度低くなるのではないかという予測もなされています。
低出生体重児の増加には、高齢出産の増加が関係しているのかもしれません。厚生労働省の「小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する保健指導マニュアル」によると、母親の年齢と新生児の体重との関係をみた場合に、2,500g未満の新生児の割合は20代の母親で最も低く、年齢が高くなるにつれて割合が増加しています。
では、低体重で生まれたお子さんの、その後の発育はどうなのかということで、『小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査研究会:低出生体重児保健指導マニュアル』を見てみますと、小さいお子さんだからといって、必ずしも心配する必要はないようです(下記参照)。例えばSGA(Small for Gestational Age)と呼ばれる在胎期間別出生時体格標準の10パーセンタイル未満であっても、2歳、3歳となるにつれて、やや小さいもののキャッチアップされていることが示されています。
SGAのお子さんに対する治療としては、実際には成長ホルモンが使われるようで、「保健指導マニュアル」にはその適応基準が示されています。治療開始は3歳以上になってからであり、身長が-2.5標準偏差の場合とされています。
また、栄養に関しては特別に推奨されるような栄養素はなく、「不足しないように十分な適切な量を与えること」と記載されています。ただし、体重をむやみに増やさないという注意書きもあります。早くキャッチアップさせたいからといって、カロリオーバーにならないようにしながら、適切な栄養をバランス良くということが大事かと思います。
続いて、低出生体重児の健康リスクに触れておきます。
これは国立生育医療研究センターのプレスリリースですが、やはり心血管疾患、高血圧、糖尿病などの生活習慣病のリスクが、出生時体重が低いほど高いという関連のあることが示されています(下記参照)。
低出生体重児増加の原因の一つとして、若い女性のダイエット志向があるのではないかということが言われています。
「日本人の食事摂取基準」と「国民健康・栄養調査」のデータを利用して、充足できていない栄養素、およびたんぱく質の摂取量の推移をスライドに示しました(図3)。
たんぱく質摂取量については、20歳以上、75歳以上、20代の女性に分けて示しましたが、1995年頃は良好であったものが徐々に減ってきている状況で、とくに20代の女性での充足率が顕著に減っています。こういう変化も、低出生体重児の増加に関係しているのではないかと考えています。
充足率が低い栄養素としては、ビタミン、ミネラル、食物繊維が挙げられます。
ここまで、アミノ酸の話に入る前に、現在の日本人の身長の傾向と、栄養素摂取状況についてお話させていただきました。
ディスカッション「低出生体重児が増加する日本」
鈴木先生 若い人の食事量は私も本当に気になっていて、学生と食事をしても食べない子が多いですね。たんぱく質の不足もそうですが、食べる総量自体が少ないと感じます。本人は慣れてしまっているのかもしれませんが、いざ子ども産みたい、子どもがほしいとなったときに、影響が現れるのではないかという危惧があります。
数年前に中学生向けの食育の教材を作ったことがあるのですが、その時は、「なぜ食事が必要か」という話から始めました。もちろん、生きるために必要なのですが、それも教えなければいけない状況になっているというのは、ある意味、幸せな時代かもしれません。しかし、栄養状態が悪いことが子どもたちの将来の健康にも影響する可能性があるのであれば、日本人で低出生体重児が増えている根本的な原因を、きちんと研究しないといけないのではないかと感じました。
もう一つ、妊娠時の母体を守るために、あまり食べさせない傾向もあるようなのですが、その点について梶原先生はどうお考えですか。次は...3. アミノ酸で成長を促進できるか?/たんぱく質の新しい栄養価
このシリーズは全5回でお届けいたします。
プロのためのアミノ酸実践講座
第4回 発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~
Profile

梶原 賢太(かじわら けんた)
味の素株式会社アミノサイエンス事業本部