セミナーレポート

あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座

第4回 発育発達とアミノ酸
~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~
5. トークセッション「身長にまつわる“都市前説”」

鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)
梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
※この記事の内容は公開当時の情報です
「プロのためのアミノ酸実践講座」の第4回が2024年3月22日にオンラインで開催されました。第4回のテーマは「発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~」。ここではセミナーの模様をレビュー記事としてお届けします。

全5回の連載の第5回は、鈴木志保子先生、梶原賢太氏によるトークセッション「身長にまつわる“都市前説”」です。
演者:鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)、梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
初出:あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座 第4回 発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~
開催日・場所:2024年3月22日/オンライン

身長にまつわる“都市前説”!?

鈴木先生  今回は、身長にまつわる“都市前説”を梶原先生がおまとめくださっています。最後にそれをご紹介いただきます。嘘か本当か、先生にずばりお答えいただきたいと思います。
梶原氏 ネット上にあふれている情報からピックアップいたしましたが、ズバリとお答えできるデータがない項目もありますので、その辺は鈴木先生のご経験やご推察も加えていただきながら、お答えしていきたいと思います(図1)。

身長にまつわる“都市前説”

図1 身長にまつわる“都市前説”
鈴木先生  では1番目です。「身長は遺伝で決まるんですか」という質問ですね。
梶原氏 やはり、ある程度は遺伝が関係していると思います。欧米人は日本人より一般的に背が高いですし、日本人も十分な栄養を摂るようになったことで高くなってきましたが、今の170cmぐらいがそろそろ平均としての限界なのかなという気がいたします。
鈴木先生  大谷翔平選手はご両親ともに運動歴のある方のようで、やはり背が伸びる遺伝的素因があったのではないかという気もしますね。また、西別府病院でスポーツドクターをされている先生が、さまざまなアスリート本人の身長と両親の身長のデータを基に、子どもの成長後の身長を予測する計算式を出されていまして、その方法では栄養状態や身体活動量を加味して多少は予測値を変えるのですが、基本的には両親の身長から算出するということですので、やはり身長は遺伝である程度、決まってくるのかもしれません。
梶原氏 まあ遺伝的背景は変えられませんが、2番目以降の項目と関連することとして、環境因子を変えることはできますね。
鈴木先生  では2番目にいきます。「高校生になると身長は伸びない」。これは、先生のお考えでは、成長ホルモンの分泌が関係してくるので個人差があり、そうとは言いきれないということでしょうか。
梶原氏 平均としてみれば恐らく中学生のときが一番伸びるとは思いますが、高校に入ってから10cm以上伸びる人も珍しくないかと。単純に成長ホルモンの分泌のピークの個人差であって、「高校生になったら伸びない」というのは、「平均的にはそういう人が多い」というだけの話だろうと思います。

鈴木先生  そうですよね。私がみている選手にもそういう選手は少なくありません。少し専門的な話をしますと、時々ご両親から「うちの子どもはまだ身長伸びると思いますか?」と聞かれることがあり、そういうときには、整形外科などを受診し骨端線を調べていただき、伸びる要素の有無を確認してもらうことをお勧めしています。

続いて3番目です。「牛乳を飲めば身長が伸びる」。先生、これはどうでしょう。

梶原氏 これは恐らく、牛乳を飲むから伸びるわけではなくて、牛乳を飲むという習慣の子どもは、質の良いタンパク質を他の栄養素も含めてきちんとバランスよく摂っていることが多くて、そのために身長が伸びやすいということだと思います。「牛乳を飲んでも意味がない」というわけではなくて、「牛乳だけ飲んでも意味は少ない」ということです。牛乳を含めていろいろな食材を摂ることが重要なのだろうと考えます。

鈴木先生  個人的な話になりますが、私は小さいときに背が飛びぬけて高く、それが嫌で、小学生になり「牛乳を飲むと背が伸びる」と聞いてから、好きな牛乳を飲まなくなりました。ところが中学生になって、牛乳を飲まなくても身長は伸びると知って、「それなら飲み続けて良かったんだ」と後悔しました。正しい情報を見極めることが大切ですね。

次は「ジャンプをすると身長は伸びる」です。どうでしょうか。

梶原氏 これについては、私はデータを見たことがないです。
鈴木先生  私もないです。ただ、ジャンプなどの刺激を含む運動が、骨密度の維持に働くというデータはありますね。実際、若い時からバレーボールをされている中年期の女性などは、骨密度がとても高いです。ですから、骨の健康という意味では、ジャンプも大切かもしれません。
梶原氏 確かに刺激は大事だと思います。例えば宇宙に長期間いますと筋肉が衰えるのはよく知られていますし、運動による刺激を加えることで成長に関わるホルモンの分泌が高まることも知られています。ただ、だからといって身長が伸びるかというと、そのようなデータはないと思いますが。

鈴木先生  大人になるとジャンプをするような機会が減るということは言えるかもしれませんね。私なども子どもの頃は階段を降りる時に数段飛ばしてジャンプで下りたりしていましたが、大人になってからは飛び跳ねるという動作をほとんどしていません。骨の健康のためには大人こそジャンプをしたほうがよいのかもしれません。

5番目です。「身長が伸びるゴールデンタイムはあるか」。

梶原氏 ゴールデンタイムがあるとすれば、それはやはり成長を促すために最も重要なホルモンである成長ホルモンがでるタイミングです。そのタイミングは、睡眠後の最初のノンレム睡眠と、それから運動後です。ですから、睡眠をしっかりとるということと、運動をするということが、身長を伸ばしていくうえにおいては大切なことではないかと思います。
鈴木先生  傷の修復にも睡眠が大切ですね。個人的な体験談をまたいたしますが、私は子どものころにアトピー性皮膚炎で薬が欠かせなかったのです。ところが、運動をしてよく寝ると、不思議と皮膚炎の症状が軽快することを何度も経験していました。ですから、今の梶原先生のお話に納得いたしました。 次は「筋トレしすぎで身長が伸びなくなる」。これはいかがでしょうか。
梶原氏 これはデータがないのですけれど、何となくイメージとしては、例えば体操選手などは非常に筋肉がついているけども身長は高くないといったことがあるような気がいたします。しかし、これは鈴木先生にお尋ねしたいのですが、体操選手はむしろ身長が伸び過ぎないようにコントロールしているのでしょうか?

鈴木先生  体操は身長が大きすぎない方が有利なことがあるので、発育期にあまり栄養を摂らせないということがされるケースもあるようです。体操選手の背が低いことが多い理由が、筋トレを多くしているからなのか、それとも本来は伸びるはずのところを栄養で抑えることもあるためなのか、研究するにもサンプル数の確保がハードルとなってできていないのが現状だと思います。エビデンスに基づいた回答がちょっと難しい質問ですね。

続いて、「手や足が大きい人は身長が伸びる」。これはどうですか。

梶原氏 これもよく言われることのようですが、多分、身長と手足の大きさはだいたい比例するということではないでしょうか。あとは、手や足のほうが身長全体よりも先に成長するということはあるかもしれません。

鈴木先生  私もそう思います。子どもたちの成長曲線を描くときに、足のサイズも記録しておくと、面白いデータをとれるかもしれませんね。

最後に「声代わりや生理が早いと身長の伸びは早く止まる」。これについてはどう思われますか。

梶原氏 二次成長(性徴)の過程で声変わりや初経が起こりますので、その発現からしばらくたつと二次成長が終わり、成長ホルモンの分泌も基礎的なレベルへと低下してきます。つまり、声変わりや初経が早ければ、身長の伸びる時期が早いということで、成人期の身長にはあまり関係がないのではないでしょうか。

鈴木先生  初経に関しては少しデータがあるようです。最近では小学校低学年で初経発来となる子どもいまして、そういう子どもを追跡していくと、あまり身長が伸びていないという報告がみられます。ただ、初経発来が起きる条件については、一定の体脂肪蓄積が必要なのではないかという説もありますが、詳細はいまだ不明のようです。声変わりの時期と身長との関連については、今まで考えたことがありませんでした。

ということで、身長にまつわる都市伝説について、梶原先生とともに、いま言える範囲内の回答をしてみました。 先生、最後に成長のポイントをまとめていただけるとありがたいです。

梶原氏 成長につきましては、やはり必要な栄養素をきちんと摂るということに尽きると思います。「日本人の食事摂取基準」などを参照しながら、ふだんの生活を見直してしっかりバランスよく摂るということです。そのほかの環境因子としては、睡眠も大切ですし、食事、運動、睡眠という三つが成長に関わる要素として重要だと思います。あとは近年の日本の課題として、低出生体重児の増加という問題は指摘可能だと感じます。
鈴木先生  低出生体重児の増加、その背景にあると思われる若年女性の過剰なダイエット志向、これは何とかしたいですね。中学生ぐらいの段階からしっかり教育すべきことだと思います。我々もこの点に関して今後も情報発信していきたいところです。

最初から読む...1. 子どもの発育

このシリーズは全5回でお届けいたします。

プロのためのアミノ酸実践講座
第4回 発育発達とアミノ酸~アミノ酸は身体の成長にどう関わってるのか~