セミナーレポート

あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座

第3回 免疫とアミノ酸(シスチン・テアニン)
3. 現代型免疫低下とは?

梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
【聞き手】鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)
※この記事の内容は公開当時の情報です
2023年2月からスタートした「あじこらぼ」(味の素株式会社)と一般社団法人日本スポーツ栄養協会(SNDJ)による「プロのためのアミノ酸実践講座」。その第3回が2023年12月15日にオンラインで開催されました。第3回のテーマは「免疫とアミノ酸(シスチン・テアニン)」。新型コロナウイルス禍を経てインフルエンザが毎年流行する昨今は、免疫に対する人々の認識も高まっています。こんな時代だからこそ、免疫について考えるこのセミナーの模様をレビュー記事としてお届けします。

全5回の連載の第3回は、梶原賢太氏による講義「現代型免疫低下とは?」です。
鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)、梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
演者:梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部) Profile ▶
演題:3. 現代型免疫低下とは?
初出:あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座 第3回 免疫とアミノ酸(シスチン・テアニン)
開催日・場所:2023年12月15日/オンライン

現代型免疫低下とは?

続きまして、「現代型免疫低下」についてお話ししていきたいと思います。

「現代型」と言われますが、結構、昔からある考え方で、食生活の変化、不規則な生活、ストレス、過度に清潔な環境などによって、人々の免疫力が昔の人よりも低下しているのではないかとするものです。もともと免疫能は加齢とともに低下しますが、その低下がより若い段階から始まっているのではないかとされています(図1)。

現代型免疫低下とは

図1 現代型免疫低下とは

お示ししているスライド(図2)は、免疫学の大家でいらした藤田紘一郎先生による、現代型免疫低下で現れるとされる症状です。しっかり寝ても疲れがとれない、口内ヘルペスができやすい、風邪が治りにくい、花粉症やアトピーの症状など、これらのうち一つでもあてはまれば、現代型免疫低下の可能性があると言われています。

あなたも現代型免疫低下?

図2 あなたも現代型免疫低下?
監修:藤田紘一郎先生(人間総合科学大学教授、東京医科歯科大学名誉教授)

そこで私ども味の素では、現代型免疫低下に該当する人がどのくらいいるのかという調査を行いました。すると、700名中、実に3分の2以上が該当する可能性が浮かび上がりました(図3)。

現代型免疫低下の割合(味の素調査 2012年)

図3 現代型免疫低下の割合(味の素調査 2012年)

さらに、忙しい人ではその割合がより高いことも示されました。具体的には、睡眠時間が6時間以下の人では4人に3人以上、受験生では85%もの人が現代型免疫低下に該当するようです(図4)。

忙しい人ほど現代型免疫低下が増える(味の素調査 2012年)

図4 忙しい人ほど現代型免疫低下が増える(味の素調査 2012年)

つまり、やはりストレスが最も免疫力を低下させる要因になっているのではないかとも考えられます。実際、自然免疫を担っているナチュラルキラー(NK)細胞の活性が、ストレスの強さと逆相関することや、医学部の卒業試験の前はNK細胞活性が低く試験後には高いという変化が起き、例外はテストの成績が不良だった学生でのみ認められたという研究報告もあります。

アスリートの免疫力低下

アスリートも例外ではありません。

高強度のトレーニングはストレスとなり、筋肉だけでなく消化管にも炎症が起こります。消化管は食べ物を消化・吸収するだけでなく、全身の免疫にとって非常に重要な役割を担っています。トレーニング後の炎症や食欲低下によって栄養素の補給が不十分になることが、アスリートの免疫を低下させるように働きます(図5)。

あなたも現代型免疫低下?

図5 アスリートと免疫力の低下

小腸の粘膜のイラスト(図6)を示しておりますが、正常な小腸の粘膜は細胞がきれいに並んでいて、腸内細菌や未消化の食べ物が体内に入り込む隙間がありません。しかし、高強度トレーニングなどで炎症が起こりますと、細胞の間に隙間ができ、そこからさまざまな物質が体内に侵入していきます。

運動により腸を守る働きが下がる

図6 運動により腸を守る働きが下がる

ディスカッション「アスリートの免疫力が低下する要因」

鈴木先生 ありがとうございます。アスリートの話の前の現代型免疫低下の話も興味深く、今の人の大半が当てはまるのではないかと思いながら拝聴していました。そのお話に関係があるかどうかわかりませんが、私が最近、危惧していることとして、子どもたちの体温低下という現象があります。子どもは成長・発達のためにエネルギーをいっぱい使って細胞を増やしているから大人よりも体温が高いはずなのに、腋窩で測ると35度台の子が結構いるのですね。先生は、体温と免疫の関連について、何かお考えはございますか?
梶原氏 そうですね。感染症にかかると体温が上がるのは、そのほうが免疫力が高まり異物の排除に都合が良いからです。ですから、体温が平均的に下がってきているとしたら、免疫力も低下している可能性は否定できないかもしれません。その原因が食習慣にあるのか運動不足なのかはわかりませんが、心配な現象だと思います。
鈴木先生 子どもたちの免疫力の低下が、何か良からぬ病気のリスクを押し上げてしまわないか、非常に心配です。
梶原氏 現代型免疫低下という現象は、もう避けることの困難な社会的な現象かもしれませんが、少なくとも、食事や睡眠をきちんととるといった基本的な対策をないがしろにすべきではないのではないかと感じます。

鈴木先生 アスリートの話も盛り込んでいただき、ありがとうございました。アスリートも、本当に弱いのですね。体はたくましいのに、団体競技の選手が大会後に一斉に風邪をひくといつたことがよくあります。

梶原先生にお尋ねしたいことがありまして、夏場に良い練習ができて体重が減る選手は秋口に風邪をこじらせることが多いのです。私は、「夏に食欲が落ちて体重が軽くなると、パフォーマンスが上がったように感じるかもしれないけど、そのままでは免疫能が低下しているから、しっかり体重を戻さないと」とアドバイスをすることがあるのですが、この点について先生のご感想をお聞かせください。

梶原氏 アスリートが最適なコンディションを保ち続けるのは、かなり大変なことなのではないでしょうか。夏に激しいトレーニングを積んで少し体力が下がっているところに、秋になって寒暖差が大きくなってくると、弱り目に祟り目のようなもので、負荷が溜まっている部分に影響が現れてくることがあるのかもしれません。もともと秋は「食欲の秋」と言いますように、自然の摂理に従うことも、健康を保つうえで重要なのではないかと思います。
鈴木先生 ありがとうございます。もう一つ教えていただきたいことがありまして、私は「栄養バランスが乱れても当面は問題ないけど、後から影響が出てくるから、今からバランスに気を付けないといけない」といった話をします。免疫についてもそうではないかと感じました。今日食べなかったから明日風邪をひくというのではなく、塵も積もって山となるように、徐々に免疫能が低下して、やがて感染症が起きてくるようなイメージでよろしいでしょうか?
梶原氏 そうですね。われわれの体は、命を保つという点では非常によくできていて、1食や2食抜いても何も起こりません。ただ、食事を摂らなければ、体は脂肪やたんぱく質を壊してエネルギーを生み出します。すると、何かの負荷に対するマージン、予備能という言い方もできると思いますが、マージンがどんどん減っていきます。とくに高齢者はマージンが少なくなりがちです。予期せぬ負荷に対する予備能を高めておくためには、ふだんの健康的な食事が大事だなと、私自身、歳とともに感じることが増えてきました。

このシリーズは全5回でお届けいたします。

プロのためのアミノ酸実践講座 第3回「免疫とアミノ酸(シスチン・テアニン)」

Profile

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梶原 賢太(かじわら けんた)
味の素株式会社アミノサイエンス事業本部

1991年4月 味の素株式会社入社。中央研究所・生物科学研究所に配属。アミノ酸の生理作用とアミノ酸を応用した医薬品開発に携わる。2010年4月 味の素製薬株式会社(現:EAファーマ株式会社)に出向。輸液・栄養・透析研究所に所属し、輸液剤、透析剤の薬理研究に携わる。2012年4月 味の素製薬株式会社臨床開発部。輸液剤、消化器疾患用薬の臨床試験(治験)の実施、承認申請書作成に携わる。2014年7月 味の素株式会社健康ケア事業本部に所属。2016年7月 同アミノサイエンス事業本部ダイレクトマーケティング部R&Dグループ。2023年7月より同事業本部バイオファイン研究所マテリアル&テクノロジーソリューション研究所アミノインデックス・サポーティブケアグループ 兼 アミノサイエンス統括部品質保証・OE推進グループ健康学術チーム兼任となる。