第3回 免疫とアミノ酸(シスチン・テアニン)
1. アスリートと免疫力
演題:「アスリートと免疫力」
初出:あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座 第3回 免疫とアミノ酸(シスチン・テアニン)
開催日・場所:2023年12月15日/オンライン
アスリートと免疫力
当講座ではこれまで、アミノ酸はどうやって作られるのか、筋肉とアミノ酸というテーマをとりあげてきました。3回目の今回は、感染症予防、免疫力の維持という視点でアミノ酸を掘り下げたいと思います。最初に私から「アスリートと免疫力」ということで少しお話をさせていただきます。
「免疫力をアップさせる」とよく言いますが、免疫の「力」というよりもむしろ、「自分の体が本来もっている免疫機能を高い状態に保つ」という表現のほうが、より適切かもしれません。高強度の運動と免疫の関係については多くの論文があり、端的に言ってしまうと、高強度運動はあまり良くないのですね。免疫のことだけを考えたら強い運動をするほど、その後に免疫機能が落ちるとする報告があります。
しかし、その一方で健康のためには筋肉をつけておいたほうが良いのは確かですし、健康全般に運動がプラスに働いてくれることも間違いありません。ですから、免疫と運動の関係にはある意味、相反する要素があるということです。よって自分のライフスタイルの中で運動をいつどの程度行うのか、運動をすることによる免疫能への影響をどのように抑制するかを考えることが大切になります。
今日はアミノ酸から免疫を考えましょう。
新しい発想ですね。栄養で免疫を高めるというと、いろいろな栄養素をしっかり摂るとか、乳酸菌が良いとかといった話が多いのですが、そこから一歩進めてアミノ酸と免疫の関係について、味の素の梶原賢太先生に教えていただきます。当講座の1回目にお話がありましたように、味の素さんは100年以上アミノ酸の研究をしていらして、独自の方法でアミノ酸を抽出し製品化して、現在世界トップクラスのアミノ酸メーカーです。梶原先生はその味の素で30年以上、アミノ酸の研究に携わってこられた先生です。
非必須アミノ酸だからといって“可欠”ではない
今回、初めて視聴されている方のために、アミノ酸についてごく簡単にお話をします。
体の中で作ることができない、もしくは作られる量が少ないため、体外から補給しなくてはならないアミノ酸のことを「必須アミノ酸」、最近では「不可欠アミノ酸」とも呼ばれます。それら以外は「非必須アミノ酸」「可欠アミノ酸」といい、体内で作ることができるために補給しなくても事欠かないとされてきました。ところが近年、アミノ酸は単に「摂取しなくても良い/良くない」と単純に二つに分けられるものではなく、それぞれのアミノ酸が体内で独自の役割をもち、20種類のアミノ酸をしっかり摂らなければいけないことがわかってきています。
アスリートでは、これに消化・吸収の問題が加わります。
たんぱく質はアミノ酸が80以上結合して作られていて、たんぱく質食品を食べるとそれを消化してアミノ酸になってから吸収されるのですが、アミノ酸になるまで時間がかかります。アスリートのように高強度の運動をした後には消化・吸収が落ちていますので、たんぱく質食品を食べても十分にアミノ酸を吸収できないことがあります。そうであれば、初めからアミノ酸の形になっているものを摂取することによって、消化のプロセスは不要になり、効果的に吸収できます。現在のスポーツ栄養は、このような考え方もするようになってきています。
アミノ酸そのものを摂取するという戦略をとるとき、多彩なアミノ酸のそれぞれの生理機能を知っておくことが重要になるのは当然です。そして、数あるアミノ酸の中には、免疫の維持にも役立つものがあるというのが、今日お話しいただく内容です。
「免疫の話はどうも難しい。免疫と聞くと耳を塞ぎたくなる」という人も少なくないかもしれませんが、梶原先生がわかりやすく解説してくださると思います。では先生、どうぞよろしくお願いいたします。
このシリーズは全5回でお届けいたします。
プロのためのアミノ酸実践講座 第3回「免疫とアミノ酸(シスチン・テアニン)」
- 1. アスリートと免疫力
- 2. 何が免疫力を低下させるのか?
- 3. 現代型免疫低下とは?
- 4. 癌治療の支持療法としてのシスチン・テアニン【1月23日(木)公開】
- 5. まとめ「免疫力をアミノ酸で上げるには?」【1月24日(金)公開】
Profile
鈴木 志保子(すずき しほこ)先生
一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長
公立大学法人神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科 教授