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味の素『あじこらぼ』"学校給食について"座談会

コロナ禍で学校給食はどう変わった? 子どもたちへの影響と栄養教諭たちの挑戦【前編】

※この記事の内容は公開当時の情報です

コロナ禍で学校給食はどう変わった? 子どもたちへの影響と栄養教諭たちの挑戦【前編】

コロナ禍において、感染リスク軽減のため、配膳方法の工夫やメニューの見直しなど、さまざまな制約が加わった学校給食。現場ではどのようなことが起き、どのような対応が取られてきたのでしょうか。2022年3月、学校給食にかかわる栄養学の専門家らを招いて、座談会を開催しました。

登壇者は、(一社)日本スポーツ栄養協会理事長 鈴木志保子先生、武庫川女子大学短期大学部准教授 藤本勇二先生、神奈川県立保健福祉大学准教授 駿藤晶子先生、全国学校栄養士協議会理事で兵庫県栄養教諭の増谷美栄子先生の四人。給食を通じた子どもたちの健康や栄養教諭の担う役割などについて、白熱した議論が交わされました。

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あじこらぼ座談会開催にあたって

コロナ禍で学校給食はどう変わった? 子どもたちへの影響と栄養教諭たちの挑戦【前編】

鈴木先生 日本スポーツ栄養協会の理事長、神奈川県立保健福祉大学の栄養学科学科長の鈴木と申します。今日はモデレーターとして座談会を進めさせていただきます。駿藤先生は会場に、藤本先生、増谷先生はオンラインで参加してくださっています。どうぞよろしくお願いいたします。

「第4次食育推進基本計画」やコロナ禍で、給食や食育の現場はどう変わったの?

鈴木先生 まずは栄養教諭の増谷先生から、コロナ禍での給食や食育の現場について教えていただきます。

増谷先生 30年以上にわたって栄養職員、栄養教諭として兵庫県内の給食センターに勤務し、学校給食に携わってきました、増谷と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

コロナ禍での大きな変化といえば、やはり「黙食」です。班になって楽しく食べられない代わりに、「しっかり味わって食べる」ことにシフトし、子どもたちの間ではすっかり定着しました。

献立を作る側としては、手巻き寿司やおにぎりなどの素手で触れるメニューを避けるなどの感染防止対策や、今後の物価上昇への対応など、さまざまな課題はありますが、置かれた状況の中で楽しみのある給食づくりを目指しています。

第4次食育推進基本計画で言及されている食品廃棄への対策についても、コロナ禍で新しい問題が生まれました。感染対策として配膳した後のおかわりを禁止したため、最初の配膳時点で自分に合った量を調整しなければなりませんでした。これがなかなか難しく子どもたちも苦戦していました。また、学級閉鎖も頻発したので、具材を使い切れるような献立に変更する工夫も必要でした。

食育にも影響が出ています。以前は栄養教諭が各学校の教室に出向いて、野菜などの実物を見せながら話したのですが、今はなかなかできません。代わりにICTを活用して、地場の生産者を取材した動画や給食調理の様子などを配信するようにしました。

コロナ禍で学校給食はどう変わった? 子どもたちへの影響と栄養教諭たちの挑戦【前編】

第4次食育推進基本計画において、とくに私たちが注力したのは、減塩です。出汁をしっかり効かせたり、汁物の具材を増やしたり、レモンや酢を活用したりして、少しずつ減塩に取り組んでいます。また、献立に行事食や郷土料理を織り交ぜながら、子どもたちに持続可能な食につながる地産地消の大切さなども伝えるようにしています。

鈴木先生 コロナ禍で学校が再開し、給食がスタートしたときは、感染リスクを軽減するために、どんな工夫をされましたか?

増谷先生 まずは品数を減らし、そのうえで先生が配膳を行いました。子どもたちによる配膳では密になる上に、(感染対策を徹底すると)配膳に時間がかかるとみられたからです。これらは市全体の方針として決まりました。

自治体によっては、事前に弁当箱に詰めて配膳時間を減らしたり、しばらくは主食と袋ものだけに変更していたり、と対応はさまざまだったようですね。

鈴木先生 栄養面ではかなり問題がある内容でしたよね……。今はもう以前のスタイルに戻ったということですが、どのような状況で、誰がどのような判断を下して元に戻ったのか。そのプロセスを、きちんと書き留めておかなければなりませんね。今後に活かされるべきでしょう。

増谷先生 そうですね。現状では、当時の記録を残せていませんが、今後の課題とさせていただきます。

藤本先生 学校で子どもが顔を寄せて話したり、休み時間に一緒に遊んだりしている姿を見ると、教育委員会や学校によって、感染対応がバラバラなことが分かります。給食についても今後はしっかりとした判断基準が必要になってくると思いますね。

※1 第4次食育推進基本計画:食育基本法に基づく計画で、第4次は2021年作成。3つの重点事項として、①生涯を通じた心身の健康を支える食育の推進、②持続可能な食を支える食育の推進、③「新たな日常」やデジタル化に対応した食育の推進を掲げている。

コロナ禍で教育現場はどのように変わった? 子どもの心への影響は?

コロナ禍で学校給食はどう変わった? 子どもたちへの影響と栄養教諭たちの挑戦【前編】

鈴木先生 次にコロナ禍における教育現場の変化について、藤本先生にお話ししていただきます。

藤本先生 武庫川女子大学短期大学部幼児教育学科の准教授で、児童中心の教育法を専門に食育や給食にかかわっています、藤本です。どうぞよろしくお願いいたします。

コロナ禍において、子どもは明らかに孤立しています。人と人との距離を取ることが求められ、学校では行事や直接体験より、教科の授業時数の確保が優先されています。大阪府立大学の山野則子先生の研究によると、少なくとも10%の子どもが、新型コロナウイルス感染症にかかわって自宅で暴力を目撃するなどのレベルのトラウマとなる経験をしているそうです。

つまり子どもたちは、表面上、何もないように見えても、内面的にストレスを抱えている。先生方もすでに気づいているはずです。このような現状において一番大事なことは、「信頼できる他者の存在を実感できること」なんです。

「信頼できる他者」とは家族以外で、栄養教諭を含む学校の先生、さらには給食にかかわるさまざまな職員がなり得ます。「他者とつながる実感」は、子どもたちの健やかな成長に不可欠で、私は学校給食に対し、栄養・健康という面だけでなく、心理的・社会的な面からも大きな期待をしています。

鈴木先生 信頼できる他者になるために、栄養教諭や学校栄養職員は、どのような働きをすれば良いでしょうか?

藤本先生 いかに子どもとの関係性をつくるかが大事なんですが、普段、栄養教諭の先生方が無自覚にされている声掛けを、自覚的にやるべきだと思います。

「今日の給食おいしかった?」という声掛けに、「ううん、おいしくなかったよ」と答えるのは、決して給食を否定しているのではなく、そのやり取りを通じて、栄養教諭との関係を築いているんです。食を通して、どうやって子どもに言葉を掛け、反応できるか。その積み重ねが、信頼できる他者になり得るのではないかと思っています。

コロナ禍からだからこそ実現した、北海道と沖縄をICTでつなぐ食育

鈴木先生 藤本先生は、コロナ禍にICTを活用したおもしろい食育を実施されたと伺いました。ぜひ、紹介していただけますか?

藤本先生 沖縄と北海道の子どもたちの交流授業の例ですね。題材は、「昆布ロード」です。沖縄の渡嘉敷と北海道の利尻という離れた地域の子どもたちが、ICTと学校給食を通して距離を超えた交流を持ったんです。

交流に先立って北海道の子どもたちにはクーブジューシーや肉汁を、沖縄の子どもたちには昆布を使ったどさんこ汁などの給食を出しました。交流学習では、沖縄の子が昆布の収穫の様子を想像して描いた絵を北海道の子に見てもらいました。北海道の子からは沖縄の子に、収穫に関する昆布クイズを出してもらいました。また。沖縄ではどんな風に昆布を食べているかを北海道の子どもたちに紹介しました。 

第4次食育推進基本計画でうたわれているデジタルの活用と、さらにはSDGsにもつながる伝統的な和食文化への理解を深めることができました。 

実現できたのは、学校給食の力があってこそ。栄養教諭は学校給食の献立を通じて、こんな機会を提供できる。こうした積み重ねが、子どもたちがコロナを乗り越える力にもなるはずです。

コロナ禍で学校給食はどう変わった? 子どもたちへの影響と栄養教諭たちの挑戦【前編】

鈴木先生 なんだか感動しました。コロナ禍で悪いことばかりじゃないな、と。デジタルをうまく活用したとても良い例であり、交流のツールが「給食」である素晴らしさ。知識だけではなく、実際に食べて体感できるというのが、学校給食の強みですよね。「昆布って食べてみたらおいしいね」や「いつか現地で本物を食べてみたい」など、体感から得られるものがありますからね。

こういった各学校での活動をコーディネートできるのが、栄養教諭なんですね。栄養教諭の先生方にはぜひ、このような役割を担っていると自覚してもらいたいです。

藤本先生 こうした取り組みを実行するには、栄養教諭がそれぞれの学校の中で、すでに責任あるポジションにあり、信頼感を得ている必要があります。日頃のコミュニケーションと、おいしく意味のある給食の献立づくりの積み重ねが、このような場面で発揮されるんです。 「巻き込み力」も問われていますね。「巻き込み力」は令和の日本型学校教育の中で、より重要視されている力です。

鈴木先生 学校同士のマッチングは、どのようにしたんですか?

藤本先生 私が行いました。面識のあった2人の意欲のある先生に声を掛け、私が少し台本を書き、当日はお2人に進行をお任せしました。

鈴木先生 日本スポーツ栄養協会としても、このようなマッチングに協力できないか検討してみたいですね。単独ではなく、文科省や大学の先生方などを巻き込みたい。

藤本先生 栄養教諭が一人でやろうとすると、難しいですからね。学校を巻き込むことからはじめ、ICTの活用やプログラム作成、マッチングなどなど。ある程度、様式を用意してあげる必要があるのではないでしょうか。今回はテーマが昆布ロードでしたが、たとえば塩の道とか、鯖街道、シュガーロードなど、いかようにも展開できますね。

栄養教諭の専門性が問われている今、栄養教諭の皆さんには、ぜひコーディネーターとして活躍してほしい。その専門性を発揮するためにこそ、外部の支援を受けた様式やICTが活用されるべきなんです。

鈴木先生 栄養教諭はこんな風に仕事ができるんだっていうことを、もっと広く知ってもらいたいですね。

後編に続く

参加者プロフィール

コロナ禍で学校給食はどう変わった? 子どもたちへの影響と栄養教諭たちの挑戦【前編】
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