聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 栄養部の清水朋子先生によるインタビューの後編では、生活スタイルの変化にともなう栄養指導のあり方や、今後の栄養士に求められることについてお話いただきます。
自宅での栄養摂取における新たな課題
――栄養相談にも変化はありましたか?
感染に対する知識の確認や設備の整備を行うため、入院数や外来数を制限し、手術も一時行わない時期がありました。外来診療も一時的ですが、オンライン(電話診療)になったのです。これにより、基本的に医師の診断や臨床データをもとに行う糖尿病、高血圧、胃切術後などの栄養食事指導も、一時は通常の4分の1までに減りました。
通常診療に戻り、数か月振りに栄養食事指導にいらした患者さんの中には、体重増加や血糖値のコントロールの乱れ、血圧上昇などがみられるケースもありました。コロナ禍での運動不足やストレスも大きな原因ではありますが、改めて定期的な栄養食事指導の必要性を感じました。
――新たな体制を作ることで良い方向へ向かっていることもあるのでしょうか?
新たな対策としてオンライン診療を立ち上げました。これにより医者の診察は多くても月に1度程度ですが、栄養相談はご本人の希望があれば2週間に1度に回数を増やしてサポートできるようになりました。どのような状況にあっても、栄養士として持続した介入というものが確実に必要です。
実はこれまでも、多くの方が朝食を摂る8時ごろに、タイムリーな栄養食事指導時間が設けられるといいのにと感じていましたが、どうしても勤務時間(午前9時~午後5時半)の中で行われていました。ところが、密になるのを防ぐための時差出勤(フレックス制)が導入されたことで、トータルで対応可能な時間が午前8時~午後6時半までとなったのです。忙しくて時間が取れない人や高齢者に対しても、いつでも食事に対するアドバイスができる体制の一つとして今後も続けたいと考えています。
――コロナ以前・以後で相談の内容はどのように変わりましたか?
血糖値の乱れがある方で、体重がオーバーしてしまっているにもかかわらず低栄養状態という方が増えているように感じます。生活習慣が変わったことが、食習慣に変化を及ぼすことも少なくありません。社員食堂の利用や学校給食による食事が全て自宅での食事になり、野菜不足やたんぱく質不足から栄養バランスが偏ってしまうこともありますし、欠食や夜食の習慣が増えることで摂取量が減少または増加してしまうなど、理由はさまざまです。
特に子どもは、お菓子を食べ過ぎたり牛乳を飲む量が減ったりすることで、今後の成長や運動機能に変化が出るリスクもあります。
高齢者は体重に関係なく低栄養が気になりました。買い物にも出かけづらい時期がありましたが、運動不足やたんぱく質の摂取不足は、筋肉量が減ってしまう原因になります。そんな方には、カルシウムやビタミンDに吸収をよくするために、外に出なくても良いので、自宅での日光浴やラジオ体操などの軽い運動を行うことをおすすめしています。
ウィズコロナ、アフターコロナ時代の栄養士
――免疫力を高めることが注目されていますが、食事で気をつけることはありますか?
結局は「バランスの良い食事」が大切なのです。
実のところ、コロナに効果のある具体的な栄養素については何も正式に発表されてはいません。言えるのは、「健康的な食事をして、正常な免疫が体についておけば、コロナになっても怖くないよ」ということです。医者や看護師にいたっても、バランスの良い食事や適度な休息を摂ることで、健康な状態を保ち、免疫力を高めておくしかないのです。
もし可能ならば、1日単位でも1週間単位でもよいので、主食、たんぱく源、野菜、乳製品、果物がそれぞれきちんと摂れているか......といったように、今の食事を見直してみていただきたいですね。栄養食事指導を利用して、上手に野菜ジュースやサプリメントを取り入れることも1つの方法だと思います。
――これからの栄養士に求められることや、大切にすべきことを教えて下さい
「バランスの良い食事」が大切だとわかっていても、食材の量や栄養の関係については、よくわからないという方も多くいらっしゃいます。そこで、必要な栄養とそれを摂るための具体的な食材やその量が、ひと目見てわかるような情報の伝え方が重要です。わたしも栄養食事指導の際、野菜の1日の適量を写真で見せています。例えば、「キャベツとレタスとニンジンとジャガイモと玉ねぎを、このぐらい買ってきて、これを3日位で消費すれば、1人分の必要量は摂れているんですよ」といった、具体的で生活に取り入れやすい指導です。
伝えなければならないのは本当に基本的なことで、これまでと変わりはありません。ただ、これまで以上に一人ひとりの栄養に関する知識や理解が大切になってきます。入院中や食事療法を実施している間は、栄養や自身の食事内容について考える機会も増えますが、健康であれば栄養についてあまり気にすることはありません。ですから未病の人に対しても、いかに栄養について興味をもってもらい、どのように知識を伝達していくかということをもっと考える必要を感じます。ただそれは、そんなに難しい事ではなくて良いと思います。
「主食があって、主菜があるなら、副菜では野菜をこれくらい取りましょう」
「色の濃い野菜と薄い野菜を摂りましょう」
「そうめんを食べるならこんなものと一緒に」
「ご飯を食べられないお子さんは、おいも類、例えばポテトサラダを食べればOKですよ」
といった、アドバイスでも十分です。
これまでも、これからも、栄養士にとって重要な課題の一つにあげられるのは、『一般の方に向けてバランスの良い食事の摂り方の指導をどのように行うか』ということではないでしょうか。
感染症に負けない身体づくりのためにできることとして、- 手洗い・うがいをこまめにして感染を防ぐ
- 日頃からバランスの良い食事をして正常な免疫を備えておく
- 適度な運動
という大きな3つのポイントが挙げられます。
今回、これらを実践することが、多くの人にとってなかなか難しいことだということを実感しました。今後も、この基本的な事柄をわかりやすく具体的に伝え、習慣的に身につけていってもらうということが、私たち栄養士に求められているのではないでしょうか。