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医療現場から学ぶ これからの感染予防策と栄養指導【前編】
コロナ禍の医療現場に学ぶ感染予防の実態

※この記事の内容は公開当時の情報です

医療現場から学ぶ これからの感染予防策と栄養指導【前編】「コロナ禍の医療現場に学ぶ感染予防の実態」

早くから新型コロナウィルスの感染者を受け入れ、治療にあたってきた病院での、衛生管理や職員の健康管理、患者のケアはどのようなものだったのでしょうか。

コロナ禍での学びをもとに、今後のアフターコロナにおける栄養士の役割について、聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院 栄養部の清水朋子先生にお話を伺いました。

後編「これからの栄養指導と栄養士にできること」はこちら

病院の体制づくりと情報伝達の壁

――病院側の体制を整えるうえで大変だったことを教えて下さい。

医療現場から学ぶ これからの感染予防策と栄養指導【前編】「コロナ禍の医療現場に学ぶ感染予防の実態」
清水 朋子 先生(聖マリアンナ医科大学 横浜市西部病院 栄養部 副部長)

まず難しいと感じたのは、日々変更される対策や情報をいかに素早く正確に関係者へ伝えるかということです。

厚生省から毎日のように発表される情報をとりまとめ、対応について朝も夜も、休日も関係なく話し合いを重ねる必要がありました。ただどうしても、情報が錯そうし、内容が次々と変わってしまうことで、病院内での情報の伝達は混乱しました。

医療従事者およびスタッフ関係者は、いくつもの部署にまたがって500名を超えます。職種によって勤務形態も異なりますし、衛生管理に対する知識の差もあります。

患者さんの食事の配膳方法や職員の院内での食事に関しても、直接伝達はもちろん、ポスターを貼ったり院内のネットで告知したりもしましたが、徹底されるのに10日程かかりました。 設備や体制、情報の共有や統一が追いつかないことが衛生管理にも支障をきたし、感染拡大を招く原因になりうるということを、身を持って感じました。

職員への感染予防策

――スタッフへの感染を防ぐためにどのようなことが行われたのでしょうか?

職員の健康を守るため、さまざまな改善を重ねました。

まずは食器についてです。

食事の下膳は感染の危険があるということで、陽性、または疑似症状のある患者さんに対しては、配膳トレー以外の食器をすべてディスポ−ザル(使い捨て)に変更しました。

医療現場から学ぶ これからの感染予防策と栄養指導【前編】「コロナ禍の医療現場に学ぶ感染予防の実態」
感染予防のため、食器をすべてディスポ−ザル(使い捨て)に変更

大量集団調理マニュアルや、今回の新型コロナウイルスに対する厚生省の指示によると、食器の別消毒は必要ありませんでした。ですから、通常の食器乾燥機で80度以上の熱風によって処理すれば問題はないと考えられましたが、職員への感染リスクを下げるためにできることは全て行いました。

病院の集団調理マニュアルの中で、献立と調理法に変更はありませんでした。しかし、食器については飛沫感染の可能性があるという情報を受けて、最終的には全てを使い捨てに。使用後には残食と一緒に病棟の汚染区域内で感染物として廃棄するよう看護部に依頼しました。

もちろん配膳トレー、温冷配膳車、配膳車の車輪に至るまで消毒を行いました。厨房内にウィルスを持ち込まないために、清掃業務の見直しと実施確認をすることで、全員で同じ認識ができるよう配慮しました。

――スタッフそれぞれが特に気をつけたこともあったのでしょうか?

厨房のスタッフはもともと手を清潔にするという意識は高いのですが、厨房に入る前はもちろん、厨房の外でも、何かに触った後にはすぐに手洗いとアルコール消毒することをよりいっそう徹底してもらっています。

院内の感染対策委員会からは、全ての職種のスタッフがアルコールボトルを携帯し、一つの動作ごとに手指を消毒することが推奨されました。 薬剤部からは、通勤時でも使用できるよう携帯用のアルコールボトルの配布がされるなど、病院全体で衛生維持に対する働きかけがありました。

医療現場から学ぶ これからの感染予防策と栄養指導【前編】「コロナ禍の医療現場に学ぶ感染予防の実態」
全ての職種のスタッフがアルコールボトルを携帯

院内の食事についても、密になることを避けるためにいろいろな工夫がなされました。 職員食堂では、職員同士の密を避けるため席数を減らし、換気を行い、手洗いや使用後のテーブルをアルコールで清拭することを徹底しました。 定食メニューはお弁当形式にし、会議室を開放して食事ができるよう工夫しました。

コロナ禍での学びと病院での課題解決

――病院全体での衛生管理体制について教えて下さい。

病棟においても、災害対策委員会を中心にさまざまな対策の検討と発信が行われ、陰圧(感染患者の部屋の空気圧を低くして部屋の外に空気が流れにくくする空調)やカーテンでの仕切り、6人部屋の利用人数を4人までとする人数制限等が実施されました。

院内クラスターが発生した際は、問題点を病院全体の共通課題とし、施設の改修、職員に対するWEBでの情報配信、衛生管理の確認試験などが実施されました。

病棟間の移動や密になることを防ぐため、一時的にチーム医療のNSTの活動が休止せざるをえないことになったことにもなりました。 もちろん学会や医療セミナーはほぼ中止となり、院内の各種会議もオンラインで行われました。

現在では、感染防止を強化しながらチーム医療も開始していますが、今後の学会やセミナー、会議等においては、新しい形での運用が始まると思います。

――入院患者さんへの影響はどのようなものがありましたか?

栄養管理計画を立てるには、やはり患者さんと直接会って反応を見ながら判断しなければならないことがたくさんあります。

しかしコロナ禍では職員もこれまでどおりに病棟に入ることができず、マスクも不足している状況でしたので、聞き取りには看護師さんの協力が欠かせませんでした。

現在は、陽性・疑似症の患者に対しても、iPadを利用して栄養士が患者と直接会話できるシステムを取り入れたことにより、細かい対応が可能になり、看護師との情報共有もできるようになりました。

医療現場から学ぶ これからの感染予防策と栄養指導【前編】「コロナ禍の医療現場に学ぶ感染予防の実態」
直接会話ができないため、患者とスタッフがそれぞれiPadを持ち、ビデオ通話を用いて会話

――外国人の受け入れもについては、どのような課題や対策方法がありますか?

オリンピックを控え、これからは外国人向けの対応がより増えると思います。

食物アレルギーや宗教による禁止食品などの伝達を確実に行うためのチェック表などを、英語や中国語で作成しておくと良いでしょう。 事前に医者に止められている食品はないか、食べると身体にじん麻疹や咳が出るものがないか、細かくチェックできるようなものがあると良いと思います。

当院では、看護師によるアナムネーゼ(これまでにかかったことのある病気や、ご家族、日常生活についての聞き取り調査)の際に、食事に関係する事項があれば必ず栄養部に連絡してもらうようにしています。

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