病院・介護施設での“食べる楽しみ”を支えるうま味研究
うま味物質は食べ物にうま味を付与するだけでなく、風味を増すことで食べ物をおいしくし、食べる意欲へとつながります。最近の研究では、食物の選択、摂取、消化・吸収と代謝などの調節に根本的に関わる重要な役割を果たしていることがわかり、人の生活の質(QOL)の向上に寄与する可能性も期待されています。本記事では、病院・介護施設での研究をご紹介いたします。
1:うま味強化食品(おかゆ)による高齢者の栄養改善
病院食のおかゆに、0.5%グルタミン酸ナトリウムを2ヵ月間添加し、生化学指標およびビデオ画像による行動評価を行いました。グルタミン酸を強化したおかゆを摂取した方は発語・表情・会話・血液生化学指標など有意に改善しました。
2:入院高齢者に提供されている給食のみそ汁のグルタミン酸濃度調査
高齢者医療・介護施設220施設より凍結したみそ汁を入手し、グルタミン酸と食塩相当量を分析したところ、食塩相当量に大きな差はみられませんでしたが、グルタミン酸濃度は地域・施設ごとに大きな差が確認されました。原因はだし素材やみその種類の地域差も影響していますが、摂取基準のある食塩と異なり、うま味に関する意識が低いことも推測されます。おいしさの観点からも、食塩摂取量だけでなく、グルタミン酸濃度への配慮が必要です。
がん治療中でも食事をおいしく楽しむために~がん治療中の味覚変化に関する研究~
がん患者さんは、抗がん剤治療の副作用で起こる味やにおいの変化により食欲不振が助長されることが多く、そうなると体力やQOLが著しく低下してしまいます。しかし現在このような味嗅覚変化に対するよい治療法はなく、調味によって対処することが求められています。
味の素(株)はがん治療の副作用などで食事が摂りにくくなった患者さんに少しでも「おいしく・楽に」食べていただけるよう、臨床管理栄養士の方々と「がん病態味覚研究会」を設立して、研究やセミナ―開催などの活動を行っています。
抗がん剤治療中の患者に、MSG強化(グルタミン酸ナトリウム0.55%)と無強化(0.3%)のすまし汁(食塩濃度は同じ)から好きな方を選んでもらったところ、強化を好んだ患者は無強化を好んだ患者より「自分の味覚が変化している」と感じていました。
味覚の変化が大きい患者には、うま味を強化した汁が好まれました。
※MSG:うま味物質グルタミン酸ナトリウム
最近、うま味成分グルタミン酸の生理的役割については精力的な研究がなされており、さらなる有用性が発見されています。味の素(株)も、うま味をはじめとする味覚と人の健康との関係を追究していきます。日本の高齢者から発展途上国の貧しい子供たちまで、うま味の有用性研究を通じて世界の人々の健康に貢献し、皆さまへの情報発信を行っていきます。