このシリーズは全2回でお届けいたします。
演題:地域における産官学連携による減塩・増カリウムの推進
座長:石見 佳子 先生(東京農業大学総合研究所 参与・客員教授) Profile ▶
初出:第72回 日本栄養改善学会学術総会
開催日・場所:2025年9月13日/東京農業大学世田谷キャンパス
「日本人はなぜ減塩と増カリウムが必要なのか
まず、グローバルな視点からみると、WHO(世界保健機関)が2025年までに世界目標として「食塩の平均摂取量の30%削減」を掲げています。日本を含む東アジアでは、食塩の過剰摂取による死亡割合が最大の要因で、世界全体と比較しても食塩の問題は非常に大きい地域となっています。
日本におけるリスク要因別の関連死亡者数の第1位は高血圧で、別項目で「食塩の高摂取」もランクインしています。また、食事は全粒穀物や果物、ナッツや種子、野菜が少なく、カリウム摂取と関係しています。(図1)

図1 日本におけるリスク要因別の関連死亡者数
また、中年期の高血圧は、脂質異常症、糖尿病等と並び、認知症発症のリスク要因とされています。これら要因の対策により、認知症の45%が予防可能であるとの研究報告もあります。
WHOの認知機能低下および認知症のリスク低減のためのガイドラインでは、食塩摂取量は1日5g未満が理想的とされています。世界32カ国52集団を対象に調査した研究では、1日の当りの食塩摂取量が多いほど、加齢に伴う血圧の上昇が大きいことがわかっています(図2)。人生100年時代においては、中年期からの減塩が極めて重要となるのです。

図2 世界32か国52集団における尿中ナトリウム排泄量と加齢による血圧の関係
高血圧の要因は、ナトリウムの摂りすぎとカリウム不足が大きく関わっています。カリウムは体内の余分なナトリウムの排泄を促す働きがあるため、両者のバランスが重要。そこで、最近着目されているのが、尿中に排出されるナトリウム(Na)とカリウム(K)の比「尿ナトカリ比」です。これを下げることが、高血圧予防、さらに心臓病、脳卒中、循環器疾患の予防に有効であるということが明らかになってきています。
宮城県登米市の特定健康診査受診者のデータから、尿ナトカリ比が6以上になると高血圧の有病リスクが有意に高いことがわかりました。また、日本人中学生のデータからも、尿ナトカリ比が高いほど血圧が高いことが示されており、子どもたちの健康にとっても改善が求められます。さらに、米国の研究で、尿ナトカリ比の上昇は循環器疾患の発症のリスクを高めることも報告されています。
尿ナトカリ比を下げるには―食事で減塩・増カリウム
日本高血圧学会では、尿ナトカリ比の至適目標を2未満、実現可能目標を4未満と設定しました。令和5年の国民健康・栄養調査結果によると、食塩摂取量は目標値より約3g多く、カリウム摂取量は目標量を下回っています。日本人成人における尿ナトカリ比は、約45%以上の人が4以上と高くなっています(図3)。

図3 尿ナトカリ比と高血圧有病リスク
では、どうすれば尿ナトカリ比を下げることができるのでしょうか。
まずは、ナトリウム(食塩相当量)を減らすこと。日本人の食塩摂取量の約6割は調味料に由来するため(図4)、調理の工夫での減塩に加え、調味料を減塩タイプのものに置き換えることも有効な手段です。日本高血圧学会の「JSH減塩食品リスト」掲載品の相対的減塩量(一般品と比較したときの減塩の割合)を見ると、特に調味料が減塩タイプになると社会全体のナトリウム量を大きく削減できることがわかります。本日のお弁当のように減塩調味料を使うことも有効な減塩手段の一つなのです。

図4 日本人成人の食塩摂取の由来
次に、カリウム摂取量を増やすことがあげられます。カリウム摂取源としては、野菜に加え、果物や牛乳・乳製品が重要です。果物や牛乳・乳製品は調理による損失が少ないカリウム源ですが、日本人の摂取量は目標の半分程度と不足しています。
ここで注意点が2つあります。1点目は、「減塩ができないからカリウムを多く摂取すればいい」と考える方がいらっしゃるかもしれませんが、それは誤りです。食塩摂取量が多い状態では、カリウムを多く摂取しても血圧降下効果が減弱するというデータがあります。したがって、まずは減塩に取り組むことが基本です。2点目は、食事の栄養計算値から算出されたナトリウム(mg)、カリウム(mg)は、mmolに変換すると数値が異なるため、尿ナトカリ比の目標値と単純に比較できない点をご留意ください。
職域・地域における食環境整備の事例
事例を紹介します。一つめは、中小企業が健康経営の観点から、昼食にスマートミール弁当を導入し(希望者のみ)、毎月1回、10分間の食や健康に関するミニ講話を実施。1年後の健診で開始前と比較すると、スマートミール弁当を利用した従業員の食塩摂取量は減り、尿ナトカリ比も下がったという結果が得られました(図5)。食べる食事そのものを変えるということが非常に重要であるとわかります。

図5 スマートミール弁当による減塩効果
もう一つは、厚生労働省の「スマート・ライフ・プロジェクト」で2024年の厚生労働大臣賞を受賞した岐阜県飛騨市の取り組みです。飛騨市の行政が、食品の「小売業」「飲食業」「製造業」をつなぎ、減塩食品の活用を促しました。小売業ではさまざまな場所で減塩食品を販売、飲食業ではスマートミールのメニューを推進しました。製造業では、地元の製麺業者が減塩中華そばを開発・製造し、ヒット商品になっています。結果、飛騨市の国保加入者の2022年特定健診では、2018年と比較すると、Ⅰ度高血圧の有病者率に大きな改善が見られました。スマートミールであれば、減塩とともにカリウム量増加も可能です。
米国の葉酸摂取を促す政策でも、リーフレット配布による呼びかけでは情報が届きにくい一方で、食品に葉酸を添加すれば普段の食生活で継続的に摂取できることが示されています。
情報提供や教育による意識づけも重要ですが、実際に人々の健康を守るためには、食品や食事そのものの改善が効果的です。なかでも、減塩など健康的な食品へのアクセスをより容易にする食環境の整備がカギとなります。これを実現するには、産官学の連携が不可欠で、とりわけ、民間の食品企業の力がなければ成し得ません。栄養で人々の食と健康を支えたいという思いを共有する企業とともに取り組んでいくことが、重要であると考えています。
このシリーズは全2回でお届けいたします。
Profile

演 者
武見 ゆかり(たけみ ゆかり)先生
女子栄養大学副学長・栄養学部 教授

座 長
石見 佳子(いしみ よしこ)先生
東京農業大学総合研究所 参与・客員教授