セミナーレポート

第72回 日本栄養改善学会学術総会 ランチョンセミナーレポート

おいしい減塩、本当にできるか?
講演1『食育教材としての「おいしい減塩弁当」開発の試み』

2026年03月31日
※この記事の内容は公開当時の情報です

おいしい減塩、本当にできるか? 講演1『食育教材としての「おいしい減塩弁当」開発の試み』

第72回日本栄養改善学会学術総会のランチョンセミナーでは、「おいしい減塩、本当にできるか?」をテーマに、相模女子大学の吉岡有紀子先生と女子栄養大学の武見ゆかり先生が登壇しました。産学連携による減塩弁当の開発、地域における産官学連携による減塩・増カリウムの推進と実践的な取り組みが紹介されました。

このシリーズは全2回でお届けいたします。

演者:吉岡 有紀子 先生(相模女子大学栄養科学部 管理栄養学科 教授) Profile ▶
演題:食育教材としての「おいしい減塩弁当」開発の試み
座長:石見 佳子 先生(東京農業大学総合研究所 参与・客員教授) Profile ▶
初出:第72回 日本栄養改善学会学術総会
開催日・場所:2025年9月13日/東京農業大学世田谷キャンパス

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減塩弁当「おいしい宝箱」味比べ

私たちの研究室では、(株)銀しゃり、味の素(株)と産学連携で「おいしい宝箱」と名付けた減塩弁当を開発しました(図1)。このお弁当は、健康的な食事「スマートミール®」の基準を満たし、様々な食材の使用や、調理法の工夫、味のバランスを考慮し、美味しい減塩の実現を目指しました。掛け紙のデザインも学生が何度も修正を重ねて完成させたものです。

おいしい宝箱と掛け紙

図1 おいしい宝箱と掛け紙

みなさんに、「鮭の香草パン粉焼き」と「高座豚の生姜焼き(タレ)」について、通常調味料と減塩調味料を使った2種類を食べ比べていただき、アンケートにご回答いただきました。その結果、高座豚の生姜焼きでは「減塩調味版のほうが好き」と答えた方が31%、鮭の香草パン粉焼きでは41%と、好みに大きな偏りはなく、減塩調味料を使った料理でも「おいしい減塩」が十分可能であることがわかりました。(図2、3

どちらが好みかのアンケート結果
図2 どちらが好みかのアンケート結果
どちらが減塩調味料を使用したと感じたかのアンケート結果
図3 どちらが減塩調味料を使用したと感じたかのアンケート結果

今回提供したお弁当は、熱量603kcal、食塩相当量2.0g(計算値)で、通常調味の試作(620kcal、3.1g)より減塩に成功しています(表1)。野菜類を多く使用したことで食材のナトカリ比も1.3と低く抑えられました。減塩料理は「薄味でおいしくないもの」ではなく、「そもそもおいしい」ことを感じていただけたと思います。

表1 提供した弁当の栄養価 1食(約520g)あたり
提供した弁当の栄養価 1食(約520g)あたり

「おいしい宝箱」の減塩のポイント

「おいしい減塩」が実現できたのは、減塩のポイント(図4)を実践した結果です。これは、栄養学を学ぶ学生が減塩のポイントを人間の食行動別に整理した表です。

食行動別減塩のポイント
図4 食行動別減塩のポイント

その中の一つである、「素材の持ち味を生かす」について今回のお弁当での実践を説明します。米は、本来のおいしさを味わっていただくため、(株)銀しゃりのアドバイスにより、3種類の加塩しないご飯をご用意。鮭の聖地である北海道標津産で、地域HACCAP(ハサップ)準拠の管理のもと、水揚げ後すぐに加工され、直送されたものです。豚肉は神奈川県ブランドの高座豚で、餌にもこだわった豚肉は甘味があり、素材の持ち味を生かす味付けにぴったりです。牛肉は、月に約2頭しか出荷されない希少な神奈川県伊勢原市の阿夫利牛を使用しています。また、調味料は、味の素(株)の減塩調味料を利用しています。

これらの食材は、相模女子大学が地域連携している地域や企業、生産者からご協力いただいたものです。私たちが推進している食環境整備の取り組みに地域の皆さまも共感していただき、チームとなってこのお弁当を提供することができました。

産学連携の重要性

今回のお弁当開発のプロジェクトは、味の素(株)・(株)銀しゃり・相模女子大学の産学連携、さらに地域との連携があったからこそ実現できた取り組みです。(図5

食産学連携の重要性
図5 食産学連携の重要性

味の素(株)には自社製品(減塩調味料)の食育における意義と課題提示、プロジェクトの広報や周知へのご協力、経費の支援もいただきました。(株)銀しゃりには、減塩弁当の具現化(開発、製造、販売の実現化)、さらに管理栄養士養成の側面でも協力をいただきました。私たち相模女子大学の研究室は、プロジェクトの発案・構築を担い、食育マネジメントサイクルに基づく食育の企画・実施・評価を実践。加えて、地域連携先からの原材料の調達、販売先の開拓、そして未来の管理栄養士である学生の教育にもつなげています。

プロジェクトを進める中で、関わる人たちには意義の共有・共感・連帯感が生まれました。そして、私たち自身の行動変容もありました。これは、エンパワーメントのプロセスであるとも考えられます。学生たちにとっても、産学連携によるお弁当という食育教材を実際に提供する経験は、食の大切さを自ら実感できる、かけがえのない学びとなりました。

本プロジェクトの最終目的はお弁当の開発ではなく、多くの方に食べていただくことで、地域社会が自然と健康になれる持続可能な食環境整備におけるお弁当が教材になり得るかの可能性を明らかにすることです。今後も研究・検証を進めていきますので、ご期待ください。

このシリーズは全2回でお届けいたします。

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Profile

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演 者

吉岡 有紀子(よしおか ゆきこ)先生
相模女子大学栄養科学部 管理栄養学科 教授

博士(栄養学)、管理栄養士。女子栄養大学大学院栄養学研究科修士課程修了。2005年より相模女子大学講師、准教授を経て2016年より現職。専門は栄養教育、食育。日本栄養改善学会評議員、日本食育学会代議員、日本健康教育学会評議員、NPO法人食生態学実践フォーラム理事。神奈川県や東京都江戸川区の食育推進会議関連委員、神奈川県都市農業推進審議会委員。
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座 長

石見 佳子(いしみ よしこ)先生
東京農業大学総合研究所 参与・客員教授

博士(歯学)。東京理科大学薬学部薬学科卒業、昭和医科大学歯学部において博士号(歯学)取得。同大学助手、米国留学を経て1994年、国立健康・栄養研究所食品科学部主任研究官、同食品成分生理研究室長、食品保健機能研究部長、研究企画評価主幹、シニアアドバイザーを務める。2019年より東京農業大学総合研究所教授。2024年より現職。専門は、食品栄養学、骨代謝学。