セミナーレポート

あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座

第2回 筋肉とアミノ酸~生きるための筋肉と強くなるための筋肉~
講演2. 筋肉づくりに必要なたんぱく質・アミノ酸 なにをどう摂るか

梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
※この記事の内容は公開当時の情報です

2023年2月からスタートした「あじこらぼ」(味の素株式会社)と一般社団法人日本スポーツ栄養協会(SNDJ)による「プロのためのアミノ酸実践講座」。その第2回が7月21日にオンラインで開催され好評を博しました。第2回のテーマは「筋肉とアミノ酸 ~生きるための筋肉と強くなるための筋肉 ~」。あじこらぼでは、このセミナーの模様をレビュー記事として再構成し、全3回の連載形式でご紹介します。今回は全3回の連載の第1回、鈴木志保子先生によるイントロ講義をダイジェストで公開いたします。

全3回の連載の第2回となる本稿では、味の素株式会社アミノサイエンス事業本部の梶原賢太氏によって行われた講義「筋肉づくりに必要なたんぱく質・アミノ酸 なにをどう摂るか」をご紹介します。
梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
演者:梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部) Profile ▶
演題:講演2. 筋肉づくりに必要なたんぱく質・アミノ酸 なにをどう摂るか
初出:あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座 第2回 筋肉とアミノ酸~生きるための筋肉と強くなるための筋肉~
開催日・場所:2023年7月21日/オンライン

「プロのためのアミノ酸実践講座」の第2回目となる今回は、筋肉にフォーカスしてお話しさせていただきます。

本題に入る前に、今しがた鈴木先生がたんぱく質のお話しをしてくださいましたので、用意していたスライドに急遽1枚追加しました(図1)。食材に含まれるたんぱく質の量は、もちろん食材によって異なり肉や魚に多いのですが、お肉を100g摂ればたんぱく質を100g摂れるというわけではありません。当たり前のことのように聞こえるかもしれませんが、意外にそのように勘違いされている方が多いように感じます。

梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
図1 食品に含まれるたんぱく質の量
出典:『筋肉をつくる本』(味の素株式会社)、日本食品標準成分表2015年版(七訂)の値より算出

筋肉の種類と役割

では本題に入ります。まず筋肉の種類ですが、筋肉は大きく分けると、「横紋筋」と「平滑筋」の二つに分けられます(図2)。横紋筋というのは体を動かすための筋肉で、より細かく、自分の意思で随意に動かせる随意筋である骨格筋と、意思で随意に動かすことのできない不随意筋に分けられます。横紋筋でありながら不随意筋にあたる筋肉として、心臓を動かしている心筋や横隔膜筋などがあります。

筋肉の種類
図2 筋肉の種類

一方、平滑筋はすべて不随意筋です。例えば消化管の蠕動運動は平滑筋によって不随意に起こります。動脈の弾力性も血管壁にある平滑筋が担っています。

続いて筋肉の役割ですが、主に(1)体を支えたり動かしたりする、(2)衝撃を吸収して臓器などを守る、(3)心肺機能、(4)熱産生や代謝、(5)免疫力の維持、(6)ホルモン(マイオカイン)産生、(7)水分貯留といった役割を挙げることができます(図3)。

筋肉の役割
図3 筋肉の役割

(5)の免疫力についてはアミノ酸との関連が深く、筋肉が体のアミノ酸の供給源となって免疫力の維持に寄与するという側面があります。また、(7)の水分貯留も非常に重要で、高齢者が脱水症になりやすい理由の一つに筋肉量の低下が関与している可能性が考えられます。

もちろん、(1)の体を動かすという役割も極めて重要です。体を動かすための筋肉は歳とともに減っていきます。例えば、一番大きな筋肉である大腿四頭筋は、80歳代では30歳代の半分程度に低下していると報告されています。ただし、加齢に伴う筋肉量の低下は、運動や食事によって抑制でき、かつ、何歳になってからでも増やすことができます。

寿命と健康寿命の差を埋めるには

日本は平均寿命が世界でトップクラスの長寿国ですが、健康寿命は女性では十年強、男性では十年弱、実際の寿命よりも短いことが知られています。人生の晩年の十年ほどは、介助や介護を受けながら生活をしているということです(図4)。このような寿命と健康寿命の差を埋めることは社会的な課題にもなっているのですが、その差が生じてしまう主要な原因として、筋肉量や筋力が低下した状態である「サルコペニア」や、運動機能が低下した状態である「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」、あるいは心身に対するストレスへの耐性が低下した状態「フレイル」が挙げられます。

「健康寿命」について
図4 「健康寿命」について
出典:厚生労働省発表資料(平均寿命(2015年7月発表)、健康寿命(2013年発表))

サルコペニアやロコモ、フレイルは、互いに関連しあいながら進行しやすいことに注意が必要です。例えば、加齢やちょっとした病気をきっかけに食が細くなったり運動量が減ったりすると、低栄養と筋肉減少が少し進みます。それによって運動量がより低下すると、そのために食欲が減って、より低栄養が進み、骨折や関節痛などのリスクが高くなります。それらの症状のためについには寝たきりになってしまうようなことが起こります(図5)。このような悪循環を、食事と運動で食い止めないといけません。

フレイル・サイクルの図
図5 フレイル・サイクルの図
出典:『筋肉をつくる本』(味の素株式会社)

筋肉をつける食べ方

筋肉をつけるにはたんぱく質の摂取が必要です。しかし、国民健康・栄養調査の結果をみますと、日本人のたんぱく質摂取量は徐々に減少してきていて、とくに若年女性での急な低下が問題となっています(図6)。

たんぱく質摂取量の平均値の年次推移(20歳以上)
図6 たんぱく質摂取量の平均値の年次推移(20歳以上)

たんぱく質摂取量が少ないことがよくない理由を示唆するデータの一部を紹介します(図7)。例えば日本人高齢者を対象とする研究からは、たんぱく質摂取量が少ないほど高次生活機能低下のオッズ比が高いことが示されています1)。高次生活機能とは、買い物などの生活に必要なことができる機能のことです。たんぱく質摂取量が少ない高齢者には、そのような生活に必要なことができない人が多いということです。植物性たんぱく質と動物性たんぱく質とに分けた場合、動物性たんぱく質の摂取量との関連のほうがより強いようです。

たんぱく質摂取と生活機能低下リスク(日本人データ)
図7 たんぱく質摂取と生活機能低下リスク(日本人データ)

なぜ高齢者ではたんぱく質摂取量が少ないと高次生活機能が低下してしまうのか? その理由は加齢とともに筋肉を作る力が低下していくことが関係していると考えられます。筋肉の合成速度は、20代に比べると70代では約50%に低下していることが知られていて、高齢者ほどたんぱく質をしっかり食べる必要があると言えそうです(図8)2)。

年齢とともに、筋肉をつくる力は衰えていき、20代に比べ70代では約50%に低下します
図8

筋肉のたんぱく質の合成は、たんぱく質摂取量が多いほど多くなりますが、摂取量が一定量を超えると、それ以上食べても筋肉にはなりません。ですから、朝食、昼食、夕食という3食でたんぱく質をできるだけ均等に摂取する食べ方のほうが、筋肉量の維持に適しています。目安は1食あたり20gです(図9)。

朝・昼・夕、ちゃんとたんぱく質を!
図9

ところが日本人のたんぱく質摂取量は夕食に偏っていて、朝食では性別や年齢にかかわらず20g未満の方が大半を占めています(図10)3)。さらに昼食も20gに満たない方が少なくありません。昼食を丼物や麺類などの単品で済ましてしまいやすいためではないでしょうか。

1食あたり20gのたんぱく質摂取を満たさない人の割合
図10 1食あたり20gのたんぱく質摂取を満たさない人の割合

ロコモ対策としての栄養

ロコモやサルコペニア、フレイル対策として食事・栄養だけでなく、運動が重要なことはいうまでもありません。日本整形外科学会が「ロコモチェック」などの啓発活動を推進していますので、一度お試しになってみてください(https://locomo-joa.jp/)。ここでは食事と栄養を中心にお話しします。

自分の足で歩くためには、骨と関節軟骨、そして筋肉が大切です。これらの組織中のたんぱく質のターンオーバー(半減期)をみてみますと、筋肉のたんぱく質は約1カ月半4)、骨のコラーゲンは約7年5)、関節軟骨は117年6)と報告されています(図11)。この差から、筋肉は鍛えたり栄養を考えて食べ方を変えたりすることで、比較的短期間で再構築が可能と言えます。

筋、骨、関節(軟骨)のたんぱく質の代謝【各組織のたんぱく質が入れ替わる期間】
図11

筋肉のたんぱく質の合成(同化)と分解(異化)には日内変動があり、食事でたんぱく質を摂取した後に同化が進み、身体活動などによってエネルギー不足になると、筋肉のたんぱく質の異化が進みます(図12)7)。このパターンの繰り返しから、なるべく同化を高めて異化を減らすことが、筋肉量を維持する鍵であることがわかります。

筋たんぱく質合成・分解の日内変化
図12 筋たんぱく質合成・分解の日内変化

筋たんぱく質の同化を刺激するアミノ酸

ここからはアミノ酸の話になります。9種類の不可欠(必須)アミノ酸のうち、ロイシンには、筋肉のたんぱく質の同化を刺激する働きのあることが知られています。

ロイシンの有用性を示した研究として、例えばロイシンを高配合したアミノ酸3gの摂取によって、吸収が速いことが特徴のホエイプロテイン20gと同等の筋たんぱく合成速度を得られることや(図13)8)、半年の摂取で高齢者の歩行速度が有意に速くなること(図14)9)、トレーニングによる筋肥大効果とロイシン摂取量が正相関することなど(図15)10)、多くのデータが報告されています。

ロイシン高配合アミノ酸は少量で高齢者の筋たんぱく質合成を促進する
図13
ロイシン高配合必須アミノ酸の摂取と運動を組み合わせることで、筋肉をつくる力が向上し、歩行速度が向上した
図14
トレーニング期におけるたんぱく質とロイシンの摂取量は筋肥大に影響する
図15 トレーニング期におけるたんぱく質とロイシンの摂取量は筋肥大に影響する

筋肉量の維持には目安として、1日3食それぞれの機会にロイシンを2.5~3gほど摂取する必要があると思われます。ところが、現在の日本では、これを満たしている人がかなり少ない可能性があり、懸念されるところです(図16)3)。

1食あたり2.5gのロイシン摂取を満たさない人の割合
図16 1食あたり2.5gのロイシン摂取を満たさない人の割合

(トークセッション「講演3. 筋肉とアミノ酸を語ろう~生きるための筋肉と強くなるための筋肉」に続きます)

講演3. 筋肉とアミノ酸を語ろう~生きるための筋肉と強くなるための筋肉

参考文献

  • 1) J Am Geriatr Soc. 2014 Mar;62(3):426-34
  • 2) Am J Physiol. 1997 Oct;273(4):E790-800
  • 3) Geriatr Gerontol Int. 2018 May;18(5):723-731
  • 4) JAMA. 2001 Sep 12;286(10):1206-12
  • 5) Endocr Rev. 2000 Apr;21(2):115-37
  • 6) J Biol Chem. 2000 Dec 15;275(50):39027-31
  • 7) Nutr Metab (Lond). 2011 Oct 5;8:68
  • 8) Am J Physiol Endocrinol Metab. 2015 Jun 15;308(12):E1056-65
  • 9) Clinical Trial Acta Physiol Hung. 2013 Sep;100(3):329-39
  • 10) J Nutr Sci Vitaminol (Tokyo). 2017;63(6):379-388

Profile

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梶原 賢太(かじわら けんた)
味の素株式会社アミノサイエンス事業本部

1991年4月 味の素株式会社入社。中央研究所・生物科学研究所に配属。アミノ酸の生理作用とアミノ酸を応用した医薬品開発に携わる。2010年4月 味の素製薬株式会社(現:EAファーマ株式会社)に出向。輸液・栄養・透析研究所に所属し、輸液剤、透析剤の薬理研究に携わる。2012年4月 味の素製薬株式会社臨床開発部。輸液剤、消化器疾患用薬の臨床試験(治験)の実施、承認申請書作成に携わる。2014年7月 味の素株式会社健康ケア事業本部に所属。2016年7月 同アミノサイエンス事業本部ダイレクトマーケティング部R&Dグループ。2023年7月より同事業本部バイオファイン研究所マテリアル&テクノロジーソリューション研究所アミノインデックス・サポーティブケアグループ 兼 アミノサイエンス統括部品質保証・OE推進グループ健康学術チーム兼任となる。