第2回 筋肉とアミノ酸~生きるための筋肉と強くなるための筋肉~
講演3. トークセッション「筋肉とアミノ酸を語ろう」
梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
2023年2月からスタートした「あじこらぼ」(味の素株式会社)と一般社団法人日本スポーツ栄養協会(SNDJ)による「プロのためのアミノ酸実践講座」。その第2回が7月21日にオンラインで開催され好評を博しました。第2回のテーマは「筋肉とアミノ酸 ~生きるための筋肉と強くなるための筋肉 ~」。あじこらぼでは、このセミナーの模様をレビュー記事として再構成し、全3回の連載形式でご紹介します。今回は全3回の連載の第1回、鈴木志保子先生によるイントロ講義をダイジェストで公開いたします。
全3回の連載の第3回となる本稿では、鈴木志保子先生と梶原賢太氏によるトークセッション「筋肉とアミノ酸を語ろう~生きるための筋肉と強くなるための筋肉」をご紹介します。演題:講演3. トークセッション「筋肉とアミノ酸を語ろう」
初出:あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座 第2回 筋肉とアミノ酸~生きるための筋肉と強くなるための筋肉~
開催日・場所:2023年7月21日/オンライン
肉100gではロイシンが足りない
鈴木志保子先生(以下、鈴木先生) では、ここからは梶原先生と2人で話を進めていきます。最初に質問があるのですが、家畜の食肉、例えば豚肉や牛肉、鶏肉などと、ヒトの筋肉の組成はだいたい同じようなものなのでしょうか?
梶原賢太氏(以下、梶原) もちろん若干の違いはありますが、アミノ酸のバランスという点ではほぼ似たようなものだと考えていただいて構わないと思います。
鈴木先生 そうしますと、脂身のない100gの肉は約20%がたんぱく質と言われていますので、だいたい20gのたんぱく質が入っているということになります。そのうち不可欠アミノ酸が約40~45%とされていますので、10g弱。さらに分岐鎖アミノ酸はその35%とされていて、3~4gになりますね。さらに、バリン、ロイシン、イソロイシンの比は1対2対1程度のことが多いと言われていますので、お肉を100g食べたらロイシンは1gを少し上回るくらいの量となりますね。
梶原 はい。ですから、ロイシンを2.5g摂っていただくには、お肉100gだけでは十分でない可能性があります。
鈴木先生 そうしますと、管理栄養士や栄養士はたんぱく質を1食あたり20gを目安に調整することが多いですが、ロイシンを2.5g摂るのはそれより難しそうですね。実はこの点が、今日のお話から受けた私の第一の感想です。
梶原 おっしゃるとおりです。研究であれば短期間の介入中にそれができたとしても、日々の食生活でそれを実践するのはなかなか大変かもしれません。
鈴木先生 となりますと、梶原先生はどのような方法が良いとお考えですか。やはりサプリメントでしょうか?
梶原 当社としては、そういう方法をお勧めすることになりますが(笑)、やはり基本は食事が重要だと考えます。卵などの、いわゆるアミノ酸スコアの高いたんぱく質食品を摂り入れていただくことが大切ではないでしょうか。そのような食事を工夫していただいたうえで、年齢のために食が細くなってきている、または夏バテで食欲が出ないと言った時には、ロイシンをサプリメントから摂っていただくことを一つの方法としてお考えいただければと思います。
鈴木先生 私は職業柄、「日本食品標準成分表」をよく使いますが、不可欠アミノ酸という項目までは正直なところ、これまであまり注意していませんでした。しかし、ロイシンの含有量の多い食品を選択するということも大切ですね。
朝食や昼食にたんぱく質を摂ることの大切さ
梶原 アミノ酸に関してはそのほかにも、意外にまだ知られていないな、または誤解されているなと感じることがあります。その一つは、コラーゲンについてです。コラーゲンは確かにたんぱく質ですが可欠アミノ酸で作られています。ですから、摂って悪いことはあまりないものの、不可欠アミノ酸を補えるものではなく、筋たんぱく質の合成刺激という点でのメリットはありません。
鈴木先生 確かにそうですね。最近、コラーゲン鍋が流行っていて、「食べるとお肌に良い」などといわれます。でも、もし本当にコラーゲンを摂ったあとに調子がよくなったとしたら、その人はもともとたんぱく質自体が不足していたのではないかと私は考えます。
今日のお話でもう一つ印象に残ったのは、昼食のたんぱく質摂取量が不足している人がかなり多いというデータです。
梶原 そうですね。あのデータには私も大変驚きました。朝食は食べる量そのものが少ないのでたんぱく質量も少ないことは、ある程度予測の範囲内と言えます。しかし、割としっかり食べることの多い昼食も、たんぱく質が少ないというのは意外であり、啓発活動などの必要があるのではないでしょうか。
鈴木先生 夕食にいくらたんぱく質を補っても限度がありますし、まとめて食べたからといって、その量に比例して筋肉が付くわけではないですしね。
梶原 はい。一度に大量に食べてもあまり効率が良いとは言えず、なるべく均等に食べて、筋たんぱく質合成速度が速い時間帯の割合を多くするという食べ方が良いと思います。
プロテインとロイシン高配合アミノ酸の差異
鈴木先生 ところで、コロナ禍以降、プロテインサプリの売り上げが好調なようです。運動を始める人が増え、それとともにプロテインを飲み始めた人が増えたからとのことです。これに関連して、プロテインサプリを飲み始めた人の中に肝機能のマーカーが上昇した人が散見されるという、少し気になる情報を耳にしました。さきほどお示しいただいたデータに、ロイシン3gがホエイプロテイン20gに匹敵するというデータがありましたが、たんぱく質の摂り過ぎのデメリットを抑えるために、特定のアミノ酸だけを摂るという方法についてはどう思われますか。
梶原 確かに1種類のアミノ酸を追加で摂取するという考え方もあるかもしれません。しかし、やはりバランスも重要だと思います。とくに不可欠アミノ酸は体内で合成できないものですから、その中の一つだけ多いという偏った状態よりも、全体的にまんべんなく摂取しておき、そのうえでなお不足しがちな成分を追加するというのがベストではないでしょうか。
鈴木先生 となると、やはり食事が大切ですね。
梶原 はい、そうだと思います。
栄養の専門家としてのエビデンスの使い方
梶原 それともう一点、留意いただきたいことは、今日の話はあくまでも筋たんぱく質の合成という観点からお話ししたということです。筋たんぱく質の合成にはロイシンが重要です。ただし、たんぱく質のほかの多くの機能にとっては、ロイシン以外のさまざまなアミノ酸が重要な役割を担っています。
鈴木先生 ありがとうございます。重要なご指摘だと思います。なにかの栄養素が良いという情報は、得てして独り歩きして、その栄養素さえたくさん摂れば良いことがあると思われがちです。筋力アップにしても、コロナ禍における免疫力にしても、同じような風潮がみてとれます。しかし、多くのエビデンスは、食事からさまざまな栄養素を適正に摂取して、そのうえで、状態にあわせて不足リスクの高い栄養素をプラス アルファし摂取することの有用性を検討した研究から得られたものです。私自身はどちらかと言えばサプリメントの利用に肯定的な立場ですが、それでもやはり基本は食事が重要であることを強調したいと思います。
梶原 おっしゃる通り、食事を基本にしていただいたうえで、食事だけでは問題を解決できない場合、例えばアレルギーで食べられないとか、吸収が落ちている状態にあるとか、そういった場合にエビデンスに基づいてサプリメントの摂取を計画していただくとよろしいのではないかと考えます。
鈴木先生 われわれ栄養の専門家はエビデンスを頭に入れるだけでなく、目の前の介入すべき対象者にどのように適用するか、それを考えることの大切さをお教えいただいたと思います。
本日は貴重なお話をしていただき、ありがとうございました。次回のアミノ酸セミナーも、よろしくお願いします。