セミナーレポート

あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座

第1回アミノ酸はどうやって作られるのか?
講演3. トークセッション「アミノ酸のすごさを語ろう」

鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)
梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
※この記事の内容は公開当時の情報です

アミノ酸を研究・生産し続けて100年以上もの歴史をもつ味の素株式会社と、スポーツ栄養学を“元気づくりの栄養学”として提唱、認知啓発を行う一般社団法人日本スポーツ栄養協会(SNDJ)が、アミノ酸の理解を深め、それぞれの“元気づくりの現場”で知見を活用していただきたいとの思いでセミナーシリーズ「プロのためのアミノ酸実践講座」がいよいよスタート! その第1回「アミノ酸はどうやって作られるのか?」が2月14日にオンラインで開催されました。たくさんの方にご参加いただいたこのセミナーの模様を、「あじこらぼ」ではレビュー記事として再構成し3回に分けてお届けします。

全3回の連載の第3回となる本稿では、鈴木志保子先生と梶原賢太によるトークセッション「アミノ酸のすごさを語ろう」をご紹介します。
鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)、梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
演者:鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)、梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)
演題:講演3. トークセッション「アミノ酸のすごさを語ろう」
初出:あじこらぼ × SNDJ プロのためのアミノ酸実践講座 第1回 アミノ酸はどうやって作られるのか?
開催日・場所:2023年2月14日/オンライン

鈴木志保子先生(以下、鈴木先生) 梶原さん、ありがとうございました。お話を伺って、まず、池田菊苗先生の墓前に報告をしなければいけないと思いあたりました。「先生のお志のおかけで、100年後の今、日本人の体格は各段に立派になりました。スポーツの世界でも海外の選手と対等にわたりあっています」と。日本の十大発明の一つに挙げられているとのことですが、十分納得いくことだと思います。

ところで、川崎の鈴木町に味の素さんの工場がありますね。あの鈴木町という地名は味の素さんを創業された鈴木三郎助氏にちなむものなのでしょうか?

梶原賢太氏(以下、梶原) はい。鈴木三郎助は神奈川の逗子でヨードの生産をしていたのですが、アミノ酸の市販化にあたって川崎に工場を作り、後に鈴木町と呼ばれるようになったと聞いています。

鈴木先生 私は神奈川に縁があって、高校の頃もあの辺りに住む友人宅にしばしば行っていました。すると、おいしそうな香りが流れていることがよくありました。サトウキビの匂いだったんですね。

「世界No.1」って本当?

鈴木先生 では本題ですが、まずご講演テーマに「世界No.1アミノ酸メーカー」とありますが、何をもって世界No.1と判断されているのでしょうか?

梶原 一つはやはり、うま味調味料の味の素です。当社以外にもMSG(グルタミン酸ナトリウム;MonoSodium Glutamate)のメーカーはありますが、世界シェアでは当社が圧倒的です。また当社のアミノ酸事業は調味料だけではなく、輸液などの医薬品、介護用製品、化粧品、シャンプーや化粧品などの薬粧関連製品などを展開していて、さらにはスマホの中の絶縁体などにも使われている原料にも当社のアミノ酸が利用されています。実際のところ、うま味調味料よりもそのほかの事業のほうが今は主体となってきています。

鈴木先生 アミノ酸の奥深さを感じますね。この「プロのためのアミノ酸実践講座」シリーズでは、アミノ酸について勉強していくのですが、梶原さんはアミノ酸のどんなところに魅力をお感じになられていますか?

梶原 やはりアミノ酸の極めて広範な機能性に惹かれます。ご承知のように食品には栄養としての機能と味覚としての機能、そして生理作用という三つの機能性があります。アミノ酸はそれらすべてに関連があり、それぞれのアミノ酸が単独で、または結合してたんぱく質としてさまざまな機能を発揮し、人々の健康に貢献しているという点が非常に面白いと感じています。

プロテインとアミノ酸の違い

鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)、梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)

鈴木先生 冒頭で少しお話しさせていただいたように、アミノ酸とたんぱく質(プロテイン)が全く別のものだと思っている方がいらっしゃるようです。この点について梶原さんからわかりやすくご説明いただけないでしょうか。

梶原 アスリートの方ですと、筋肉をつけるためにプロテインを飲まれる方が多くいらっしゃいます。ただし、摂取したプロテインがそのまま筋肉になるわけではありません。プロテイン(たんぱく質)のサプリメントももちろんアミノ酸が結合したものであり、摂取後はそれを消化していったんアミノ酸のレベルまでバラバラにしてから吸収され、筋肉のたんぱく質などの材料として使われます。それに対してアミノ酸を摂取した場合は、消化の過程を経ずに吸収されます。それだけ速く利用できるということです。この違いが、トレーニング後の筋肉の再合成の差異として現れると考えられます。

鈴木先生 この「プロのためのアミノ酸実践講座」は今回が第1回目で、これから、20種類のアミノ酸一つ一つがどんな機能を持っているのか、どうやって摂取するとどのような良い変化を期待できるのかといった話になっていくと思います。今回のお話しはその基礎として、本当にためになりました。

アミノ酸は穀物から作られている

鈴木先生 お話しいただいた内容を少し振り返ってみたいのですが、アミノ酸はたんぱく質の構成成分であるのに、トウモロコシなどの穀類から作られているということでした。その点をもう少し詳しく解説いただきたいのですが。

梶原 アミノ酸の原料は穀類が主体です。もちろん、たんぱく質の成分ですから、たんぱく質食品である肉類からも取り出せます。ただし、それでは原料費が割高で採算が合いません。そのため穀類を用いています。

植物性食品でたんぱく質の多いものというと大豆を思い浮かべる方が多いと思いますが、穀類にもたんぱく質がそれなりに含まれています。例えば、小麦などに豊富なグルテンはたんぱく質です。消化器疾患やアレルギー疾患の治療としてグルテンフリー食が行われることがあるためか、グルテンという物質は比較的よく知られていますが、それがたんぱく質だと認識している人は意外に少なく、別物だと思われているようです。

その小麦の中のたんぱく質に池田菊苗先生が着目されて、それを取り出す技術を確立され、当社の現在があるという状況です。

動画「うま味調味料 ~発酵法の贈り物~」(味の素株式会社)
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栄養の専門家だからこそ、正しい知識で正確に言葉を使いたい

鈴木 志保子 先生(一般社団法人日本スポーツ栄養協会 理事長)、梶原 賢太(味の素株式会社アミノサイエンス事業本部)

鈴木先生 ありがとうございます。梶原さんのお話の中で、NHKが商品名や社名を言えないために「化学調味料」という言葉を使い始めたというのも興味深く拝聴しました。現在の味の素の製法は発酵法とのことですから、発酵させて作る調味料を化学調味料と呼ぶのでしたら、味噌やしょう油、お酢なども全部、化学調味料と呼ばないといけないことになりますね。

このセミナーをご覧の方のなかには栄養関連のお仕事をされている方が少なくないと思います。そういった専門職の方には、ぜひ正しい用語を使っていただきたいと思います。

梶原 化学調味料ではなく、うま味調味料が今の呼び方です(図1)。

「うま味調味料」表記への正しい理解
図1 「うま味調味料」表記への正しい理解

鈴木先生 この呼称の問題とも関連すると思うのですが、さきほど「グルタミン酸ナトリウムは怖いものだと一部に誤解がある」というお話がありました。実は管理栄養士や栄養士の中にも、そのように信じ込んでいる人がいます。それは思想のようなものではないかと、私は感じています。大切なことは、そのような思想を持つことは個人の自由で、ご自身がうま味調味料を使わないのは構いませんが、栄養の専門家として栄養介入する際に、そのような誤解に基づく介入を行ってはならないという点です。この点は少し強調させていただきたいところです。

アミノ酸サプリは必要か?

鈴木先生 さて、そろそろ時間ですが、このシリーズの第2回目は「筋肉をつくる編」というテーマの予定です。梶原さん、質問ですが、やはりもう、ふつうにご飯を食べているだけでは駄目な時代になったんでしょうか?

梶原 もちろんのこと基本は食事からしっかり摂っていただくというのが大事だと考えます。しかし、これだけ多様性の進んだ時代になりますと、食事だけでは不足してしまう人は、サプリメントなどを使って栄養素をしっかり摂っていただくことも必要だと思います。

具体的には、何かの病気のために食事を十分摂れない、または摂ったものを吸収できていないという方もいらっしゃいます。もちろん、アスリートであれば、少しでもパフォーマンスを上げるために、適切なサプリメントを上手に使うという必要があるケースも少なくないと思います。

鈴木先生 確かに歳とともに、食べる量が減るだけでなく、食べた物に含まれている栄養素を、若い時と同じように消化・吸収できなくなってきます。アミノ酸は、多様性の高い社会、長寿時代を、いろいろな面で支えているようですね。本日はありがとうございました。

梶原 ありがとうございました。