セミナーレポート

2023.02.22

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急増する若年女性のエネルギー不足
~ 今、管理栄養士は何をすべきか ~

「女性の社会進出」と言われ始めて久しい今、いわゆる専業主婦は少数派となりました。しかし、家庭の食卓を担っているのは現在でも女性が中心です。その女性たちの食事スタイルが、多忙な生活を背景に大きく変化しています。そして若年女性の「相対的エネルギー不足」が、看過できないレベルになってきているようです。
長年、公認スポーツ栄養士としてアスリートの栄養指導を行ってきた鈴木 志保子 氏は、「女性アスリートに好発する健康障害と同様の現象が、一般の若年女性にも生じているのではないか」と述べ、本講演では両者共通の課題を掲げ、それらの解決の糸口を提示します。

第36回 日本助産学会学術集会オンライン セミナーレポート
神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部栄養学科 学科長
鈴木 志保子 氏

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現在、私は神奈川県立保健福祉大学の教員であると同時に、一般社団法人日本スポーツ栄養協会の理事長を務めており、アスリートの栄養指導を専門としております。本日は、女性アスリートに好発する栄養関連の健康障害が、アスリート以外の若年女性、出産年齢の女性にも生じているのではないか、という話をさせていただこうと思います。



若年女性の食環境の変化の実態

近年、女性を取り巻く環境が大きく変化してきています。例えば、若年世代では共働きの世帯が右肩上がりに増えていて、いわゆる専業主婦は減少してきています(図1)。それに歩調を合わせるかのように、初婚年齢が年々高くなってきています(図2)。


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それとともに、これは助産師の皆さんのご専門領域ですが、30歳を過ぎてから第一子を出産されることがごく一般的になりました。

このような環境の変化に伴い、若年女性の食生活が変わりつつあることも報告されています。本講演のスポンサーである味の素株式会社では、家庭で家族の食事を用意する主婦を対象に、食生活に関する意識調査を1982年から3年ごとに継続して実施しています。その中から今日は1点だけデータを紹介します(表1)。

家族の食事を用意する女性に「献立を立てる時に重視するところは何ですか?」と質問し、複数選択可で回答を得ています。全年齢層で見ますと、「簡単に作れる」や「家にある食材を使う」、「野菜を多く摂れる」という選択肢が上位に挙げられ、5位に「栄養バランス」がランク入りします。

これを年齢層別に見ますと20~50代では、多忙を反映してか、「簡単に作れる」がトップです。一方、50代以上では「栄養バランス」が5位に入っています。しかし若年世代では「栄養バランス」の順位が低く、20代に至っては複数選択可にもかかわらず、トップ10に入っていません。

家族の食事を担う女性に、食事の基本である「栄養バランス」がほとんど意識されておらず、「簡単に作れる」ことが最優先されているという結果に、私は衝撃を受けました。小・中・高で行われている食育が、実践に結びついていない実態を表していると言えます。

しかし、冷静に考えれば、仕方ないのかもしれません。「栄養バランスが大切」とは言うものの、バランスを考えずに食べていても生きていられるという事実があるわけですから、食育でいくら栄養バランスの整え方を伝えても、生徒は興味が湧かないのも最もです。

つまり、現代の人たちには、栄養バランスの整え方を伝えるよりも先に、なぜ栄養バランスが大切かを理解してもらう必要があるということです。


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中学生向け教材で理解する栄養バランス

以上を背景として、これから何をお話しするかといいますと、今春から使われ始めている、中学校の食育の教材についてです。私も作成委員として編集に携わりました1)

教材の内容が従来とは大きく変わりました。何が変わったかと申しますと、栄養バランスの解説の前に、「なぜ食べなくてはいけないのか?」ということを、深く理解してもらえるように工夫しました。

なぜ食べなければいけないか、それは生きるためです。では、生きることはどういうことか? いろいろな解釈が可能ですが、生物学的な視点からは「化学反応の連続」が生きるということだと言えます。

そのような化学反応に欠かせないものが3つあります。酸素と水、そして栄養素です。この3つが揃って、エネルギーが効率良く産生され、生きるための化学反応が起こります。

ところで、栄養素とは、栄養成分の中でも生きるために不可欠な成分を指します。具体的には、エネルギー源として使用可能な炭水化物(糖質)、脂質、タンパク質という三大栄養素と、化学反応のアシストに必要なビタミンやミネラルなどです。これら、化学反応に必要な材料が栄養素である一方、妊娠中の摂取により胎児への影響が懸念されるアルコールやカフェインなどは、栄養成分ではあっても栄養素ではありません。

栄養素を化学反応させるためのルール

中学生向けの教材では、なぜ食べなくてはいけないのかを理解してもらった上で、化学反応にはルールがあるという説明をします。わかりやすさを優先して図3のように、非常に簡略化して解説しています。

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例えば、1リットルのと1リットルのを化学反応させると、望む大きさのができるとしましょう。しかし、もし体内には1リットルあるけれどは0.5リットルしかなければ、0.5リットルのに応じたになります。しかも、余った0.5リットル分のは、排泄されるか何か保存できる別のものに作り替えて体に貯蓄されます。排泄するにしても、作り替えて貯蓄するにしても、体にとって負担がかかります。

では、を2リットル摂取すればも2リットルできるかというと、そうではありません。体はその時点で必要な量しか作りませんから、やはり多すぎる分は排泄または貯蓄に回ります。

具体的に一例を挙げます。脂質・糖質からエネルギーを作り出す化学反応には、ビタミンB群が必要です。脂質・糖質を十分摂っても、ビタミンB群の摂取量が不足しているとエネルギー産生が減少してしまい、体はその少ないエネルギーでやりくりしなければなりません。そのために基礎代謝を下げたりします。それによって体温が下がり、冷え性になったり、疲れやすくなったりします。もちろん、タンパク質からもエネルギーを取り出すことはできますが、その化学反応は複雑で肝臓などに負荷が生じてしまう懸念を否定できません。

一方、使われなかった脂質・糖質はどうなるかと言えば、異所性脂肪として体の随所に貯蓄されます。食べ過ぎだけでなく、栄養バランスが悪いことも肥満につながり得るということです。

このような食習慣の乱れが長年続いた結果として、生活習慣病と呼ばれる種々の疾患のリスクを上昇させます。私たち管理栄養士は、栄養介入の対象者を前にした時、その人の体の中で何が起きているのかを推測しながら指導にあたっています。それが「栄養管理」であり、管理栄養士の仕事です。管理栄養士は献立を作るだけではないと、認識いただければ幸いです。


「バランスの良い食事」とは何か?

少し話がそれましたが、整理しますと、栄養バランスが大切な理由は、生きていくのに必要な体内での化学反応を滞りなく進めるための材料を摂り入れる必要があるためです。そしてもう一つの重要なポイントは、自分に合った量を食べるということです(図4)。「バランスの良い食事」はこの2本の柱により成立するものであって、両方を満たす必要があるとご理解ください。

栄養バランスを整える方法としては、よく言われるように、主食と主菜、それに副菜が2点、それらに牛乳・乳製品、果物を加えるという献立を考えるようにします。この「バランスの良い食事」によるエネルギー摂取の状況を確認する手段としては、毎朝の排尿後の体重測定をお勧めします。体重の変化がなければ(おおよそ±300g)、摂取したエネルギー量はまず問題ないだろうと考えられます。栄養バランスについては、定期健診で確認いただくことになります。

「バランスの良い食事」に関連して、もう一つ追加しますと、「1日3食は必須か?」という質問をよく受けます。この点についてはいろいろな考え方があって、特に妊婦さんへの適用は困難かもしれませんが、バランスという面のみで言えば、1日2食でも「可」です。実際、アスリートの中には、食後の消化器症状によるトレーニングへの影響を考慮して1日2食とする人もいますし、それでメダルを獲得した選手もいます。

ただし、1日3食であれば、1回の食事の量やバランスの乱れを次の食事で取り戻すことができますが、1日2食の場合は毎食ごとに量とバランスをしっかり調整する必要があります。また、しっかり12時間ごとに食べなければいけません。


エネルギー不足と鉄欠乏性貧血

さきほど、「エネルギーの摂取量が適切か否かの判断には毎日の体重測定が指標となり得る」と申しました。しかし、エネルギー不足が慢性化している場合は、低体重で安定していることがあり、体重変動はあてになりません。

アスリートは一般生活者よりエネルギー需要が高いため、相対的エネルギー不足(Low Energy Availa- bility;LEA)のリスクが高くなります。2014年には国際オリンピック委員会が、LEAに伴う種々の健康障害をまとめて「Relative Energy Deficiency in Sport;RED-S」として定義しました2)。このRED-Sは男性、女性、どちらのアスリートにも起こり得ます(図5)。

相対的エネルギー不足に伴う健康障害をいくつか挙げますと、例えば消化管活動が低下します。消化管の蠕動(ぜんどう)は筋肉の運動によるものですから、エネルギー不足になるとその活動が低下します。また、免疫能が低下します。アスリートは健康的というイメージがあり、実際に体力はありますが、意外にも上気道感染症リスクが高いと報告されています。そのほかにも、内分泌代謝、骨代謝への影響が生じ、貧血、心血管疾患、メンタルヘルス不調も来しやすくなります。女性であれば、それらに月経異常・無月経が加わりますし、子どもであれば成長不良の問題が加わります。

本日は周産期との関連から、まず、貧血に着目したいと思います。いま申しましたように、アスリートには貧血が少なくありません。その多くは鉄欠乏性貧血です。鉄欠乏性貧血は鉄分の摂取量が少ない場合だけでなく、エネルギー不足によっても起こります。これは体の適応の結果とも言えます。エネルギーの節約をしなくてはいけない状態では、細胞に送る酸素を抑制して、強度の高い運動をできないようにしたほうが好都合だからです。エネルギー不足で貧血になるのは、体の防衛としては理に適っています。

妊娠後期には鉄欠乏性貧血が増えますが、すべての妊婦さんがなるわけではないと思います。その差はどこにあるのでしょうか。私はいずれ助産師の皆さんと一緒に研究をさせていただきたいと思っているのですが、妊娠後期の鉄欠乏性貧血には、胎児の発育が優先されるために、母体がエネルギー不足になっている影響が関与しているのではないかと考えています。そうであれば、妊婦さんの胃を圧迫しない方法でエネルギーを効率良く摂取してもらうという介入法が、成り立つかもしれません。もちろんこれは、今の段階では仮説の域を出ません。

相対的エネルギー不足による骨粗鬆症もアスリートの健康障害として無視できません。エネルギー不足の状態では、破骨細胞の働きが亢進する一方で、骨芽細胞による造骨作用は抑制がかかり、骨密度が低下していきます。エネルギー不足のアスリートは性別を問わず、疲労骨折のリスクが上昇します。

女性の場合、エネルギー不足による視床下部性無月経も骨代謝に影響を及ぼします。これらの相互関係は、「女性アスリートの三主徴(Female Athlete Triad;FAT)」と呼ばれています3)。相対的エネルギー不足を基に、視床下部性無月経と骨粗鬆症が並行して起こり、視床下部性無月経を介する経路でも骨粗鬆症が進展するという状態です(図6)。

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女性アスリートの三主徴(トライアド)として生じた無月経は引退後も回復せず、生涯にわたる妊孕性(にんようせい)の喪失に繋がることがあります。

私がスポーツ栄養士としての活動を開始してしばらく経った頃の話をします。当時はまだ「スポーツ栄養」という言葉がなく、「月経があるのはトレーニングが足りない証拠だ」という間違った指導もされていた時代でした。私のことをどこかで聞いたのであろう、ある女子高校生から「月経が無いのですが、このままで大丈夫でしょうか?」と相談を受けました。早速、私の活動を支えてくれていた産婦人科医の元での治療がスタートしました。しかしその女性は、現在に至るまでお子さんに恵まれていません。

このようなことを金輪際、日本で発生させてはならない。アスリートとしての夢を追い求める代償として、挙児という幸せを放棄するなどということがあってはいけない。この思いが、これまでスポーツ栄養の領域で活動をし続けた私の原動力の一つです。


230126_07_2.jpg https://research-center.juntendo.ac.jp/jcrws/research-products/conditioning/fat/

すべての女性の健康のために

さて、女性アスリートの生涯を左右することもある三主徴ですが、近年になりようやくその認知が広がってきました。FATを専門的に診る医療機関も増えています。FATのスクリーニングシートも開発しました(図7)。順天堂大学は、国内で初めて「女性スポーツ研究センター」という組織を作ってくれました。私も外部研究員の一員として加わっています。今は東京大学にも同様の組織があります。たいへん心強い変化です。

一方で、このような問題は果たして女性アスリート特有の課題なのか、という疑問があります。炭水化物はできるだけ控えた方が良いという情報を妄信している人が少なくありません。BMI低値ながら“やせメタボ”も若年女性の間で増加していると報告されています。さらに、エネルギー不足の関与が疑われる月経不順、冷え性、メンタル不調を来している若年女性が増えているのではないでしょうか。

これらの問題は管理栄養士だけで対処できることではありません。ぜひ皆さんとともに解決していきたいと考えています。

鈴木 志保子(すずき しほこ)

公立大学法人神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科 学科長

東京都出身。管理栄養士。公認スポーツ栄養士。実践女子大学卒業後、同大学院修了。東海大学大学院医学研究科を修了し、博士(医学)を取得。2000年より国立鹿屋体育大学体育学部助教授、2003年より神奈川県立保健福祉大学栄養学科准教授、2009年4月より教授を経て、2021年4月より現職。(公社)日本栄養士会副会長、(一社)日本スポーツ栄養協会理事長、NPO法人日本スポーツ栄養学会理事、日本パラリンピック委員会女性スポーツ委員会委員、東京2020組織委員会メニューアドバイザリー委員会副座長。専門分野はスポーツ栄養学。著書は、「理論と実践スポーツ栄養学」(日本文芸社)、「日本から見た世界の食文化」(第一出版;2021年11月30日発行)をはじめ多数。

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