セミナーレポート

2020年度全国栄養士大会オンライン講座リポート

女性の「食」に対する意識や考え方の現状から「バランスよく食べる」の指導について考える

(主婦の食生活意識調査-Ajinomoto Monitoring Consumer Survey-より)
鈴木 志保子 先生(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授)
2020年12月04日
※この記事の内容は公開当時の情報です

2020年度全国栄養士大会オンライン講座リポート

食生活に関与する女性の意識と食品利用・調理行動などの実態を把握し、商品開発と事業展開に役立てるために行っている味の素グループの「主婦の食生活意識調査-Ajinomoto Monitoring Consumer Survey-」(AMC調査)。通常社外秘となっている調査ですが、味の素グループのミッションである「栄養改善」への取り組みは重要なテーマであり、そのミッションを担う管理栄養士・栄養士の活動に役立てていただくため、2020 年度全国栄養士大会で神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授の鈴木志保子先生の解説とともに公表されました。ここでは、その概要をリポートいたします。
演者:鈴木 志保子 先生(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授)
演題:女性の「食」に対する意識や考え方の現状から「バランスよく食べる」の指導について考える
初出:2020年度全国栄養士大会オンライン
開催日・場所:2020年8月1日(土)~31日(月)/オンライン

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時間に追われて夕食の準備をする人が20代と50代を中心に増加

鈴木 志保子 先生(神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部教授)
神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 教授
鈴木 志保子 先生

まず、「時間に追われながら夕食の支度をすることがありますか」との質問に対する回答について、経年的な変化とライフステージ別の解析結果を紹介します。

30代のほぼ全員が時間に追われながら支度

この質問に、「よくある」「時々ある」と回答した割合は、2006年で既に78%でした(図1)。そして、それから12年後の2018年には82%と、経年的に増加していることがわかります。年齢層別では、20代と50代で、この12年間にその割合が顕著に増えています。 ただし、30~40代は2006年時点で既に約9割に達していて、高どまり状態です。とくに30代は2018年に94%と、ほとんどの人が時間に追われながら夕食の支度をしているようです。

時間に追われて夕食を用意する時(平日)

子どもが小さい時期は、とくに時間的負担が大

この質問に対する2018年の回答を、ライフステージ別に解析したところ、就業している主婦(ワーキングマザー)は専業主婦に比較して、より時間に追われて支度をしている実態が明らかになりました(図2)。 時間的な負担は、子どもが成長するにつれて、やや低下する傾向がみられます。しかしそれは逆に言うと、子どもが小さい時期は、時間的な負担がより大きいということです。末子が小学生以下のワーキングマザーと、末子が未就学の専業主婦では、時間に追われながら夕食の支度をすることが9割以上(「よくある」「時々ある」の合計)に上っています。

ライフステージ別

献立の重点ポイントは「簡単」であることで、「栄養バランス」は下位という現実!

次に紹介するのは、献立を決める時に重視するポイントについてです。「栄養バランス」「経済性」「簡単に作れる」「野菜を多く摂れる」「子ども(または夫、自分)の好み」などの選択肢から、複数回答可で選んでもらいました。

栄養面から考えると理想的には、「栄養バランス」との回答が上位にランクインしていることが期待されます。しかし、「栄養バランス」は全体で5位にとどまり(54%)、1位は「簡単に作れる」(78%)でした(表1)。

この「簡単に作れる」との回答は、60代以外のすべての年齢層で1位に挙げられています。前問でみたように、時間に追われて食事の支度をしている主婦が増加している以上、これは仕方のないことかもしれません。

献立を決めるときのポイントTOP10

20代は 「栄養バランス」がトップ10に入らず

ただ、若い世代では、「主婦は時間に追われているから栄養バランスが上位に挙げられないのも仕方ない」と看過してよいほど、実態は甘くないようです。20代の主婦ではなんと、上位10位にも「栄養バランス」が入っておらず、30代でも「栄養バランス」は8位に過ぎないのです。

栄養バランスは言うまでもなく、摂取エネルギー量を適切にすることと並ぶ、食生活の基本。その栄養バランスが、一般の人、とくに若い世代では、極めて軽視されていることが明らかです。成人後の食習慣の基礎が幼少期にかたち作られることを勘案すると、若い世代の主婦が栄養バランスを考える時間もないという現実に、何らかの早急な対策が必要と言えるでしょう。

管理栄養士・栄養士は「主婦の食生活意識調査」の結果をしっかりと受け止める必要がある

「当たり前」が通用しなくなっている

「主婦の食生活意識調査」の結果を見て、私が第一に感じたことは、管理栄養士や栄養士が'当たり前'だと思い込んでいることが、一般の方ではそうではないということでした。栄養指導に際して、「栄養バランスの整え方」を話し始める前に、まずこの現実を受け止めなければなりません。

私はスポーツアスリートへの栄養指導を行う機会が多いのですが、その現場でも「なぜ、バランスよく食べる必要があるの?」と問われることが増えてきました。そのため現在、私はバランスありきの指導は行わずに、「なぜ食べるのか」から説明するようにしています。

「なぜ食べるのか」の答えは、究極的には「生きるため」で、それに「からだを効率よく作るため」という要素が加わります。現在の日本では何を食べていても生きることは可能ですが、からだを効率よく作るには工夫が必要で、その方法の一つが「バランスのよい食事」だということです(図3)。

毎食バランスよく食べる理由

栄養素のバランスと量のバランス

バランスには「栄養素のバランス」と「量のバランス」という二つの意味があります。前者の「栄養素のバランス」を一般の方向けに説明する時、私は次のような話し方をします。「からだに必要な物質を化学反応で作り出すのに二つの栄養素が必要な場合、一方の量が少なすぎるとしたら、新たに作られる物質はその少ない方の栄養素にあわせた量しか作りようがない。また、多く摂りすぎた栄養素は、化学反応によって別の物質にして蓄積されたり、使われずに排泄されてしまう」と(図4)。

後者の「量のバランス」に関しては、毎日同じ条件で測定した体重が良い指標になります。

このほか、毎食バランスよく食べることは、小児期の発育・発達、高齢者のロコモティブシンドロームやサルコペニアの予防・改善などにおいて、とくに重視すべきポイントと言えるでしょう。

からだの中で行われている化学反応

多様なライフスタイルに対応した「バランスよく食べる」方法を提供できるような準備を

実践してもらえる栄養指導

栄養素バランスの整え方を指導する際に、多くの管理栄養士・栄養士が、「主食に主菜、それに副菜を2点加え、あとは牛乳や乳製品と果物を摂ってください」といった解説をしています。しかし我々は、家庭の主婦の大半が時間に追われながら食事の支度をしていて、そもそも栄養バランスさえ考えない人が少なくないという事実を思い出す必要があります。そのような人たちに、実のある情報を伝えるには、一段と簡略化して「時短」優先の話し方をしなければなりません。

一例を挙げると、「カレーライスなら、主食と主菜、副菜が含まれているので、牛乳・乳製品と果物に、もう一つ副菜を足してください。クリームシチューなら、乳製品も既に含まれていますよ」といった具合です。

1日2食でバランスをとるには

摂食する時間帯のバランスも重要です。基本的には1日3食として、3食なるべく均等になるように食べるという指導が一般的です。しかし、例えばスポーツアスリートでは、トレーニング直後は疲労のために食欲がない、食後に高強度のトレーニングをできなくなる、などの訴えのため、1日3食が困難な選手もいます。

そのような場合、1日3食に固執すべきでないと私は考えています。ただし、1日2食にするには、12時間間隔で食べること、摂取量を均等に分けること、この2点を遵守してもらいます。

アスリートに限らず、1日3食が難しい人は少なくありません。そのような人に対し、栄養学的な理想形を要求しても、実を結ぶ指導にはなりません。生活に則して柔軟なアレンジを提案するのが良いのではないでしょうか(図5)。

人々が健康な生活を享受する上で、「バランス良く食べる」ことは非常に重要です。管理栄養士・栄養士はそれを支え広めていく仕事です。私はその仕事をとても魅力的なものだと感じています。

バランスのよい食事とは

「主婦の食生活意識調査」-Ajinomoto Monitoring Consumer Survey-とは?

「主婦の食生活意識調査」は1978年に始まった、日本人の食生活の経時的な変化を追える数少ない統計資料です。1982年以降は3年ごとに行われています。直近では2018年に行われ、沖縄を除く全国210地点から、2,118世帯の主婦(20~79歳)にご協力いただきました。