若年女性が抱える食の問題点と栄養不足改善のヒント。
味の素(株)が行った20代、30代女性の食への意識を基に、(一社)日本スポーツ栄養協会理事長の鈴木志保子先生に「なぜ人は食べなければいけないのか? 慢性的な栄養不足をどう改善すればいいのか」を伺い、管理栄養士の視点から改善のヒントをお答えいただきました。
20代、30代女性の食への意識をデータで知る
佐久間:AMC調査(※)のここ数年の調査で分かったことなのですが、20代30代の主婦の意識は、料理に手間をかける意欲は長期的に減っていて、夕食の支度にかける時間を短くしたいという傾向になっています(図1)。
鈴木:それは、働く主婦が増えているからということですか?
佐久間:働いているのも理由としてあると思いますが、実は家事の時間は減っていながら育児時間は増えているというデータもあって、それもひとつの要因かもしれません。
鈴木:確かに20代30代のお母さんは、子どもにまだ手がかかる年代が多いですからね。
佐久間:そのせいないのか、食事への意識が簡便化に向いている傾向も見られます。例えば、手作りでも中食でも食生活は変わらないという意識を持っている人が多いのもこの年代の特徴です。
鈴木:料理への意識が全般的に低下しているんですね。
佐久間:はい。以前行ったライフステージの調査では、どのライフステージの女性も食べることへの意識は高いのですが、作るのが面倒くさいと思っている人が増えています。
鈴木:それは、子どもがいる、いない。結婚している、していないに関わらず?
佐久間:どのライフステージでも手作りの方が良いという意識は持っていますが、実際に手作りをしているのは既婚者です。とはいえ、例えば、惣菜のポテトサラダに切ったトマトを添えるのも手作りという人もいるなど、手作りの概念にもバラツキがあります。
鈴木:面倒くさい、というのが根強いのかもしれないですね。
佐久間:献立を考える上の健康や栄養の意識調査も、20代30代では「栄養のバランスを考えている」が10位以内に入らなくなっています。以前は野菜を多く取り入れるとか栄養のバランスを考えるなどはベスト10に入っていたのですが...。
鈴木:ちなみに、その年代は何を意識して献立を考えているのですかね?
佐久間:簡単に作れる。家にある食材。家族の好み。経済性などが献立の目安になっているようです。
鈴木:それは、栄養面を考えると問題がありますね。
20代30代女性は、自分の栄養不足に危機感を持っていない
佐久間:鈴木先生がおっしゃる問題とはどんなことでしょうか?
鈴木:まず、理解してほしいのは「バランス良く食べる」ことがひとり歩きをして、みんな理解したつもりになって「なぜ、食べなくてはいけないのか」という上位概念がおざなりになっているということです。
佐久間:と言いますと。
鈴木:「なぜ、食べなくてはいけないのか」というと、私たちが酸素を使って化学反応をして生きているように、食べることで得られた栄養素も化学反応に必要だからです。例えば、1リットルの■と1リットルの▲が化学反応すると1㎏の●ができることが目指す化学反応だとします。しかし、■は1リットルだけど▲は0.5リットルの場合は、少ない量に従うので●は0.5リットルしか作ることができません。■の1リットルのうち0.5リットルが余ることになります。それは▲が多くても同じです。そういう化学反応で私たちは生きているわけです(図2)。
佐久間:余分に材料を入れた場合も、余った材料は、違うものに作りかえて体に蓄積される。
鈴木:そうです。余った場合には化学反応によって違うものに作り替えられて蓄積されたり、排泄されたりします。必要のない化学反応をすることになるので、体に負担がかかります。材料が足りないことによって化学反応が必要に応じてできないのでさまざまな症状を生み出すこともあります。それがやがて生活習慣病を発症する原因にもなると考えることができます。
佐久間:なるほど。若年女性に調査(※※)をしていますが、バランス良く食べることは意識していても、実際、栄養不足に対して危機感は持っていないような気がします。
鈴木:それは身体が若いし今健康だから自分は大丈夫って思っているんでしょうけど、栄養状態が悪いことで、長時間かけて身体にダメージを与えることになります。例えば、普段は元気だけど季節の変わり目とかに体調不良になる人がいますよね。そういう人は、長年蓄積していたダメージがあるのではと疑うことができます。
佐久間:負の蓄積が溜まってしまうということですね。
1日1食は手作りをして、そこから栄養について興味を持つ
佐久間:なかなか自分に必要な栄養を知ることは難しいのが現状です。改善するためにはどうしたらいいのでしょうか?
鈴木:そうですね。バランス良く食べることが難しいのであれば、サプリメントなどで補うこともできますが、それを適切に行うにはそれなりの知識やスキルが必要になるので、やはり食事でカバーするのがベストです。
佐久間:私たちが行った調査では、料理や食事をすることに対して興味を持てない人も増えています。
鈴木:それらを踏まえると、まず、1日1食は手作りをしてみる。それが、先程お話に出たスーパーで購入したポテトサラダにトマトを添えるだけでもいいので、足りないと感じたものをひとつ足してみるだけでもいい。もし、料理が面倒くさいとか思っているのであれば、そこから始めてみるのがいいかましれません。
佐久間:例えば、朝抜いた分、昼や夜に足りなかった分を多めに摂るということでも大丈夫ですか?
鈴木:そういう方法もあると思います。とはいえ、1食で1日に必要なエネルギーと栄養素量を含む食事を食べることができても、栄養素の中には、1日一回の補給では、後半足りなくなってしまう栄養素もあります。また、人が食べられる量には限界があるので、1食で1日分を食べることができません。実際に1日に必要なエネルギー、1,600〜1,800kcalを1度の食事で摂るのは難しいのが現実です。12時間おきに朝50%、昼0%、夜50%など最低2食、そして3食にすれば、朝30%、昼30%、夜40%などになるので、そのほうが快適に過ごせます。3食にすれば自分のライフスタイルに合わせて分散することもスムーズにできると思いますよ。
佐久間:先程の四角三角丸の話のように、多すぎても少なすぎても難しい...。
鈴木:そうですね。極端な例ですが朝ごはんがチョコレートだけの人は、とりあえず午前中に使うエネルギーが0kcalではないので、それに合わせて昼食や夕食の栄養バランスを調整して1日に必要なエネルギーや栄養素を取るとよいでしょう。
佐久間:なるほど。
鈴木:よく納豆は身体に良いと言われますが、朝に納豆を食べる人はご飯を炊くなど朝ごはんをしっかり食べる。もちろん、納豆は身体に良いのですが、この「朝ごはんを食べる」というのが健康への良いスパイラルが生まれる要因になっているんですね。日常生活でこの健康へのスパイラルを作れば栄養不足解消への道もできるのではないでしょうか。また、身体の健康は心の健康にも影響します。考える力は健康な身体がないと生まれないので、ぜひ、栄養に留意してほしいですね。
佐久間:本日はありがとうございました。