セミナーレポート

第66回 日本栄養改善学会学術総会

うま味を活用した減塩の実際

2020年03月16日
※この記事の内容は公開当時の情報です

うま味を活用した減塩の実際

うま味を上手に活用した「おいしい減塩」料理で健康な食生活を楽しみましょう。

2019年9月5日(木)〜7日(土)に、富山県富山市において「第66回日本栄養改善学会学術総会」が開催されました。 味の素(株)と日本栄養改善学会の共催によるランチョンセミナーでは、奈良女子大学生活環境学部・特任教授の早渕仁美先生に「うま味を活用した減塩の実際」というテーマで「おいしい減塩」について解説していただきました。

演者:早渕 仁美 先生(奈良女子大学生活環境学部・特任教授)
座長武見 ゆかり 先生(女子栄養大学・大学院食生態学研究室教授)
タイトル:うま味を活用した減塩の実際」というテーマで「おいしい減塩」
初出:第66回日本栄養改善学会学術総会
開催日・場所:2019年9月5日(木)〜7日(土)/富山市

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早渕 仁美 先生(奈良女子大学生活環境学部・特任教授)

調味料と加工食品から食塩を多く摂取しています。減塩には企業との連携が不可欠です!

健康的な食生活を送るためには、「減塩」は欠かすことができない要素の一つになっています。 一方で、一般的に「減塩はおいしくない」という認識を持たれているのも事実です。日本の食品には保存のためやおいしさを引き出すために多くの塩分が含まれていることがあります。

国立健康・栄養研究所は「日本人はどのような食品から食塩を摂っているか?」(2017年)で、20歳以上男女26,726名を対象に解析した「食塩摂取源上位20食品」を発表。第1位はカップラーメン、2位はインスタントラーメンとなっていますが、食塩摂取源および寄与割合でみると、調味料が43.6%と約半数近くを占めていました。この事実から企業(食品メーカー)との協力・連携なくして、おいしい減塩の実現は不可能であることが分かります。(図1)

日本の食塩摂取源および寄与割合 -INTERMAP STUDY-

おいしい減塩のために企業も積極的に「うま味」を活用する

おいしい減塩のためには、調理についても工夫が必要です。例えば、だしのうま味、牛乳・チーズ・ヨーグルト等乳類でコクをプラスするなど、塩に頼らず、さまざまな素材でおいしさを引き出すことが求められます。

2010年には産官学連携のプロジェクトで、コンビニエンスストアで売られているお弁当(食塩4〜5g)と見た目がまったく同じで食塩の量を2g前後に抑えたお弁当を15種類作りました。100人に食べてもらいましたがほとんどの人が減塩か減塩でないか一切分からなかったという結果がでました。それは、まさに減塩調味料の活用による成果と言えるでしょう。

コンビニエンスストアのお弁当に代表されるように、昨今の中食※の利用増は顕著で、食料消費の約8割は加工品と外食です。どこでも誰でも、栄養バランスが良く適塩でおいしい食事が選べる健康的な食環境整備のために、産官学が協力・連携して、減塩調味料や加工品を開発する中でうま味の積極的な活用が不可欠です。(図2)

※中食:家庭外で調理された食品を購入して持ち帰る、あるいは配達等によって家庭内で食べる食事の形態

家庭内食の減少と中食の利用増
注)「食料」には「菓子類」、「飲料」及び「酒類」も含まれる。

味の素(株)との共同研究で基礎データを収集。「塩味」と「うま味」のバランスを検証する

減塩とおいしさに関するさまざまな実験やアンケートから見えた結果をより正確に実証するためには、うま味に関する基礎データの収集が必要です。そんな考えのもと、味の素(株)との共同研究が始まりました。

味の素(株)からピュアなうま味成分を提供していただき、どれだけうま味成分が減塩とおいしさに影響を及ぼすのかを検証。低濃度の食塩水溶液に少量のうま味物質を添加し、「塩味」と「おいしさ」の変化を定量的に官能評価しました。その結果、食塩 0.3%にMSG 0.3%を添加したものが最も評価が高いことが分かりました(図3)。つまり、少量のうま味が加わることで「塩味」と「おいしさ」が増え、食塩を減らしてもおいしい汁物や料理ができる可能性が提示されたのです。

※うま味成分:グルタミン酸ナトリウム(MSG/Mono Sodium Glutamate)

うま味成分の減塩とおいしさへの影響検証結果(おいしさ評点【全体】)
論文はこちら(PDF)
食塩濃度との間に一環した関係は認められず、いずれのNaCl濃度でも、うま味(MSG)添加により、おいしさの評価が有意に高くなった。特に、NaCl 0.3%溶液では評点が倍増。うま味添加0.3、0.6%溶液間に有意差はないが、0.3%の評点が最も高かった

食塩濃度との間に一環した関係は認められず、いずれのNaCl濃度でも、うま味(MSG)添加により、おいしさの評価が有意に高くなった。特に、NaCl 0.3%溶液では評点が倍増。うま味添加0.3、0.6%溶液間に有意差はないが、0.3%の評点が最も高かった。

子どもの食育から介護食まで、おいしい減塩で健康的で楽しい食生活の実現を

おいしく健康的な食生活を送るためには、子どもの頃から味わうことの楽しさや味がわかる感性を育むことが大切です。2015年に実施した「味覚の授業」前後あるいは対照校との比較調査から、五感を使って味わって食べる楽しさを学習する「味覚の授業」により味の識別能力が向上することがわかりました(図4)。

また、食意識や食行動にも良好な影響を与えることも分かったのです。先に提示したデータをみても分かるように、昨今では中食や外食の比重が日常の食事において大きくなっています。だからこそ、うま味を有効に活用して「おいしい減塩」に取り組むことが重要だと考えます。もちろん、家庭でも普段の食事にうま味や減塩調味料を上手に取り入れて、よりおいしく楽しく味わって食べる健康的な食生活を送りたいものです。

「味覚の授業」受講前後と受講有無別5味識別テスト正当数の比較

ランチョンセミナーを終えて(武見先生からひとこと)

武見 ゆかり 先生(女子栄養大学・大学院食生態学研究室教授)

健康にとって減塩はとても重要ですが、私たちは健康のためだけに食べているわけではありません。ですから、今回は減塩食における「うま味」の必要性を知る良い機会だったことはもちろん、これを機においしい減塩を普段の生活に取り入れてくれることを願っています。