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Ajico News Vol.6

スポーツ栄養における食事と補食~質・量・タイミングの重要性~

※この記事の内容は公開当時の情報です

スポーツ栄養における食事と補食~質・量・タイミングの重要性~

・筋肉をつくるたんぱく質の、効率的な食べ方とは?
・「アミノ酸の桶の理論」を忘れずに、必要なアミノ酸の摂取を
・1日あたり、1食あたりの「食のバランス感覚」を養う

2020 Spring発行 Ajico News Vol.6より

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食事の「質・量・タイミング」は個人によって異なります

食事の基本目的は、「生命維持と生活」「新陳代謝」で、子供の場合はそこに「発育」が加わります。エネルギーや栄養素が不足すると、その結果がからだに現れることになるのです。

「栄養バランスのよい食事」とは、食事の内容(食材選びと献立の構成)が整っていること、自分にとって適正量が摂取できていること、この両方が成立できていることを指します。

練習時間が長く活動量が多いアスリートほどエネルギーや栄養素の必要量は多くなりますが、消化吸収を効率よくできる時間が短いため、1日に必要なエネルギーや栄養素を摂取するのが難しくなります(下図)。また、最近の研究から、アスリートのたんぱく質摂取推奨量は、過小評価されている可能性が指摘され、旧来に比べて多く摂取する必要があることがわかってきました。かといって、アスリートに「とにかく食べなさい」と強要するのは正しい指導でしょうか?

ジュニアアスリート時代に毎食のごはんを2合食べるようにいわれ、食事が苦痛だったという事例もあります。しっかり食べることは重要ですが、消化能力など、個人の身体、状態を考えずに食べさせるのは誤りです。

人が1食で食べられる量には限界があります。1日の中でどのタイミングで何をどれだけ食べるか、質・量・時間が大切なのです。これはジュニアだけでなく、成人アスリートや一般の方にも同じことがいえます。

参考 Kato et.al. PLoS ONE 11(6):e0157406.

1日の生活時間と消化・吸収のタイミング
アスリートはエネルギーや栄養素の摂取量を多くする必要があるにも関わらず、消化・吸収が効率よく行われる時間が少ないことがわかります。適量を食べているつもりでも、消化・吸収が充分でなければ不足という事態に陥るのです

筋肉をつくるたんぱく質の、効率的な食べ方とは?

筋肉をつくるために、1日80gのたんぱく質をどのような割合で食べるのが最適かを調べた研究があります。この研究では、たんぱく質を20gずつに分けて1日4回、間隔をあけて摂る方法が最も効果的に筋肉をつくるという結果になりました。2回に分けて一度に40gずつにすると1回のたんぱく質摂取量がやや多く、筋肉をつくる以外にも、燃えてエネルギー源になってしまいます。また、10gずつ8回に分けて摂るパターンでは、たんぱく質の量が不足し筋肉をつくる刺激には足りないという結果になりました(下図)。

食べる量とタイミングをコントロールすることによって、効率的に栄養を摂取することができるのです。

食べ方の違いによるたんぱく質合成への影響
20gを4回の摂取が最も筋たんぱく質の合成を高めます!

「アミノ酸の桶の理論※1」を忘れずに、必要なアミノ酸の摂取を

たんぱく質を摂取する際には、量だけではなく「質」も大切です。

アミノ酸組成、特に分岐鎖アミノ酸(BCAA)は、パフォーマンスの回復を促すといわれ、アスリートにとって重要なアミノ酸です。0.8g/kg※2のたんぱく質にBCAAを添加すると、推奨量の1.8g/kgとほぼ同等の栄養価に匹敵するという研究結果も出ています(下図)。

味の素ナショナルトレーニングセンターでは、これらのデータに基づいて日本代表選手のサポートを実践。選手の強化合宿中は、20g以上のたんぱく質を3食バランスよく食べることに加えて、補食で必須アミノ酸とBCAAを摂るという指導を行っています。「質」「量」「タイミング」を踏まえた栄養指導によって、選手にとって最も効率のよい栄養サポートを実現させているのです。

※1:特定の必須アミノ酸が不足すると、その他のアミノ酸がいくらあってもたんぱく質が充分に合成されません。たんぱく質を複数のアミノ酸の板で囲まれた「桶」の中の水に例えて、「アミノ酸の桶の理論」と呼ばれています。
※2:0.8g/kgは、体重1kgあたり0.8gの意味

BCAAを摂取することにより、たんぱく質摂取の利用効率を上げる
BCAAを豊富に含む食事にすると、実際に食べたたんぱく質よりも多く食べた栄養価と同等レベルに

1日あたり、1食あたりの「食のバランス感覚」を養う

下図の1日の食事例のイラストをご覧ください。朝食が軽い分、夕食のボリュームが多くなっており、1日のたんぱく質量は摂れているものの1食あたりのバランスがよいとはいえません。

1日の食事例

基本的にバランスのよい食事とは、主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果物をそろえることと、適正な量を摂取することです。1食ごとに整えるべき「食事構成」と1日で整えるべき「食材」を考えて献立を作成し、身体に過不足なく栄養素を摂取することが重要なのです。そのためには、朝食には卵や納豆のたんぱく質をプラスするなどの、手軽にできる「食のバランス感覚」を養うことも大切です。

これらのノウハウは、高齢者栄養にも活用できます。食事量が摂れていない人には、補食などもうまく活用しながら個々に合った適正量を摂りましょう。

1回の食事での筋たんぱく質合成量には限界があります。
1回の量のバランスを考えましょう。
朝食はたんぱく質も意識して、しっかりと食べましょう!

鈴木志保子先生からのアドバイス

鈴木 志保子 先生(神奈川県立保健福祉大学)
神奈川県立保健福祉大学
鈴木 志保子 先生

アスリートは身体活動(運動)の時間が長く、その強度も高いことから一般の方よりも「考えて食べる」ことが求められます。
補食の活用は、無理なくおいしくエネルギーと栄養素の補給をしてくれる大きなポイントになります。

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