食塩摂取量の目標値の更なる引き下げに対し、どのように提案すべきか考えます。
・生活者への意識調査からみる減塩への取り組み実態
・うま味があれば低塩でも本当においしく食べられるのか?
・うま味を活用して喫食量を落とさない、臨床におけるうま味調味料活用事例
2019 Summer発行 Ajiconews vol.5より
まだまだ高い日本人の食塩摂取量
WHO基準との乖離は成人男性で5g以上
日本人の成人1日当たりの食塩摂取量は、男女ともに減少傾向にありますが、国が定める目標値からは未だ大きく乖離しています。WHO(世界保健機関)が成人の食塩摂取量として推奨しているのは1日当たり5g未満であり、日本人はその約2倍もの食塩を摂取しているのが実態です。2020年の食事摂取基準改定では、食塩相当量の目標量は男女ともに0.5g引き下げられ「1日7.5g未満と6.5g未満」になります。
塩分摂取の制限が厳しくなる一方で、高齢者の低栄養にも注意が必要です。おいしく食べることは、栄養面はもちろん、QOL向上のためにも重要です。
生活者への意識調査からみる減塩への取り組み実態
塩・塩分の摂取について気をつけていることは、「塩分の多い食品は摂りすぎない」が4割強、ついで「薄味のものを食べる」「調味料をなるべくかけない、かけすぎない」などが約3割となっています。しかし、食塩を控えた料理は味が物足りなくなりがち。減塩しても食が進まず充分な栄養が摂れない事態になってしまっては本末転倒です。
約2割の人が実践している「だしなどでうま味成分を活かし減塩」「減塩をうたった商品を選ぶ」ように、減塩にはさまざまな方法があります。減塩は続けることが大切であり、おいしさや経済面、手軽さなどで継続可能な工夫が必要です。
うま味があれば低塩でも本当においしく食べられるのか?
うま味成分であるグルタミン酸を多く含む食品(昆布など)は、昔から料理をおいしくするものとして活用されてきました。
実際に、低濃度の塩化ナトリウム(NaCl)水溶液に少量のうま味成分(グルタミン酸ナトリウム)を添加すると、「おいしさ」が増強されることが証明されています(下図)。一般の汁物(NaCl0.9%水溶液)の塩分量を大幅に減らしても、おいしい汁物を提供できる可能性が示唆されました。
さまざまな料理において、うま味成分の活用により30%前後の減塩が可能であり、減塩しても味のおいしさは変わらないという評価結果が得られています。減塩の手段として、うま味成分の活用は、日本だけでなく国際的に推奨されています。
うま味を活用して喫食量を落とさない、臨床におけるうま味調味料活用事例
食欲不振、体重減少に悩むがん患者さんのための食事として、徳島大学病院はうま味調味料でうま味成分を強化した食事を提供しています。うま味成分の介入群と非介入群の経口エネルギー摂取量を比較したところ、介入群では摂取量が維持~やや増量するという効果を出すことができました。食べて栄養を摂取するために、臨床現場でもうま味成分は活用されています。
健康への切り札にもなるうま味、正しい理解とその有用性についての活動
味の素株式会社では、2018年9月20日〜21日の2日間、米・ニューヨークで味の素グループとして初の試みとなる「World Umami Forum」を開催しました。
詳しくはこちら「世界にはびこる"誤解"を解く!「World Umami Forum」開催」
国内においても、市民公開講座やメディアを対象とした懇談会を開催し、うま味調味料の安全性や有用性、最新の研究情報を発信しています。
研究者へのインタビュー
奈良女子大学生活環境学部 食物栄養学科特任教授/
公立大学法人福岡女子大学 名誉教授
早渕 仁美 先生
ハマグリの潮汁や松茸の土瓶蒸しなど、うま味のきいた汁物のおいしさはごく少量の塩味で増強されますが、塩味が強いとおいしさが損なわれます。
料理は、うま味を上手に活用して少量の塩味や酸味、油脂味などを添加すれば、十分おいしいはず!
楽しく、味わって食べることが健康管理のカギです。